国境線の獣:アナザーストーリー(時系列28)
アビサルとセレスティアの国境は、石造りの関所で隔たれている。 森と川のある国境には、プロムナード製の強力な魔道具によって高さ数メートルの結界がつくられ、空の往来以外はほぼ不可能。 それゆえに2つの国を隔てる関所は、日々多くの人が行き交う場所となっていた。 「通ってよし。」...
アビサルとセレスティアの国境は、石造りの関所で隔たれている。 森と川のある国境には、プロムナード製の強力な魔道具によって高さ数メートルの結界がつくられ、空の往来以外はほぼ不可能。 それゆえに2つの国を隔てる関所は、日々多くの人が行き交う場所となっていた。 「通ってよし。」...
「ミコエル様、まきエル様より報告が上がってきました。」 ハザマノセカイで羽根と傘に十分な魔力を溜めた大天使ミコエルは魔力を失わぬよう、護衛のモケケと共に静かな時を過ごしていた。 「進捗はどうですか?」 まきエルは雨乞いの儀を執り行うための祭壇づくりをミコエル教徒の人々と急い...
決闘に敗れたミストファイナーは、1人、川のほとりを歩いていた。 連戦連敗。 ミストファイナーは、同世代の獣人たちとの戦いでは、ほとんど負けなしだった。 スキルが発動してから初めて貰った武器、ハンマーがとても嬉しく、ずっと鍛えてきた。 小さいが魔物も討伐したことがある。...
王妃の生家へ挨拶にいくファンド王の護衛として、剣闘師団のよだかが選抜された。 団長であるkentaxが、アビサルの国境線で起きたとされる事件の調査にいくため、クロスフェードを出たためだ。 挨拶とはいえ、王家の婚姻に関することは大きなもので、剣闘師団に加えて、魔法師団の団長、...
原初の国・アビサルは北側に灼熱に燃える山を有し、南側には熱帯雨林と長い川を有する未開拓の大地が多く残る。 レミルメリカではかなり北に位置している国のはずだが、常にマグマが噴き出すような灼熱に燃える山々がある場所があることで、年間の気温はかなり高い。...
ファンド王が出立した。 護衛と多くの貢ぎ物と共に転移の魔法を使い、姫の実家の最も近い場所から外遊する形をとっている。失礼があってはいけないと、護衛の数は最小限であるが、魔法師団の団長自らが護衛を勤めているとあっては、ほとんどの者は手出しできまい。...
ドイルによって助けられたそらうみれいと春沢翔兎は、ミコエル神殿付近からさらに南下し、海からの水が流れ込む海水溜まりの湖のほとりにいた。 ここまでくれば、毒の沼も追っては来れないだろう。 「ととさん、生きてる?」 そらうみれいの声に春沢翔兎が反応する。...
「私たちと異なる世界にある日本という国では、このように細長く切った短冊という紙に願い事を書いて、笹という木に飾るそうですよ。」 切身魚は7月7日の朝から短冊づくりに勤しんでいた。 地下にある本を読んでいた時、偶然日本という島国の文化に関する本を見つけた。...
凡戰之道、位欲嚴、政欲栗、力欲窕、氣欲閑、心欲一。 『司馬法』厳位第四の序文を再読した所で壁にある時計に目をやると、すでに丑の刻を回るところであった。古典を読むのは真に楽しい。何千年という時を経た書物で、しかも学の足りぬ考古的好事家の玩具でなく、現代に至っても興味を惹くもの...
セレスティア王国剣闘師団は、選ばれし者たちの集団である。有事の際には王国最大の戦力として前線で戦い、日頃は鍛錬に余念なく、王国近隣の魔物討伐も行う。 その命懸けの仕事は常に死と隣り合わせと言われ、登竜門と呼ばれる厳しい選抜試験で振るい落とされる者は後を絶たない。はずなのだが...
王城にある居室でヲキチは一人、王の帰りを待っていた。 ぐへへPは、部下たちを連れて市街地の視察へ出ている。 以前に話した時には国民の声を国の運営に活かす、とそれっぽいことを言っていた。 連れて行って欲しいと言おうかと思ったが、ヲキチが行くと少しややこしいことになる可能性があ...
「メッセージ。」 魔法を発動し、しばらく待つと向こうと接続されたことが確認できた。 「つながったようですね。m―a様、しおまねき様、つながりましたよ。」 異端審問官クリスエスはメッセージをオープンに切り替える。 ぐへへPとの会議を終えた後、彼ら3名は新たな国難に対処するため...
魔物ハンター・冒険者協会。 レミルメリカに存在するすべての国から資金援助を受けて設立された専門機関である。 各国に1つずつ支部が置かれ、その本部は試練の島を有するシルバーケープの内陸部に置かれていた。支部の運営はほぼ独立しており、定期的に連絡が入る以外は、本部も支部もその役...
正門から王城へとまっすぐに続く道を歩き、工房の横にある道を左に逸れると図書館のある通りに出た。王城に続く道は、多くの人が行き交うため改修されることも多いが、一本横に逸れたこの通りは、これだけ街の風景が変わった後もあまり違わない閑静さを保っている。工房の裏手にある塀を越えて、...
「ミコエル様。由杞様から、雨乞いの儀に向けた魔道具が届きましたよ。」 ドイルを送り出した後のハザマノセカイ。 どうやら大天使はあの時作った森林が気に入ったらしく。森の中にコテージを作り、木製のテーブルとイスで森林浴を楽しんでいた。 「モケケちゃん、ありがとう。」...
馬車が到着した場所は森から少し離れたところに立つ貴族の屋敷だった。 「着きましたぞ、ユーリ様。」 爺やが馬車のドアを開ける。 「そう……。」 この屋敷はもう彼女にとって、自分の家ではない。私の居場所は、あの森の中だけだ。...
彼との初めての出会いから3ヶ月。 お父様が私をお城に連れて行ってくれることになった。 私がこの間、お部屋でぬいぐるみを抱いている時、お母様がお部屋に来た。 どうしたの?と心配そうに聞かれたから、王子様のことを考えていたと正直に伝えた。お母様はとても驚いていた。...
あの日から私は新しい家に住んでいる。 とても綺麗なお庭。 とても綺麗な廊下。 お父様やお母様も喜んでいる。 でも、どうしてだろう? 最近、私は何もせずにぼーっとしていることが多くなった。 お父様やお母様に名前を呼ばれても気がつかない。...
「できた……ついに完成した。」 私の魂を注ぎ込んだこの歌があれば、大天使ミコエルに力を届けることができる。 雨乞いの歌。 ……………………。 ………………………。 …………………………。 まだ思い出すと身体が少し震える。 吟遊詩人こるんは、少し前のことを思い出していた。...