魔物ハンター・冒険者協会。
レミルメリカに存在するすべての国から資金援助を受けて設立された専門機関である。
各国に1つずつ支部が置かれ、その本部は試練の島を有するシルバーケープの内陸部に置かれていた。支部の運営はほぼ独立しており、定期的に連絡が入る以外は、本部も支部もその役割は大差ない。
魔物ハンターや冒険者への依頼の斡旋
魔物の情報収集と管理
この2つだけだ。
その点で言えば、シルバーケープにある協会本部は、試練の島の魔物の情報が多いため、最も忙しい場所かもしれない。トカゲアザラゴンの一件以来、試練の島には多くの魔物ハンターと冒険者が足を運んでいた。
腕に覚えのある者たちが、こぞって天空の頂を探していたからだ。
試練の島にヒントもしくは天空の頂へと至る道があるのではないかと考える者たちも多かったのである。そして今、協会本部は情報収集に追われていた。
「白継さんからの定時連絡はどうしました?」
監視者であるはずの白継から連絡が途絶えて数時間が経過していた。
「本部長、未だ定時連絡ありません。」
これまで白継が定時連絡を欠いたことは一度もない。
だが、試練の島1468に行くと言い残し、連絡を絶った。
しかもその後しばらくして、試練の島1468で異様な魔力反応が検知された。
すでに反応は収まっているものの、白継からの情報が無ければ判断も難しい。
「1468に向かったハンターたちに連絡はつかないのか?」
メッセージを使い連絡を試みている通信班に確認を取る。
「ダメです。メッセージ先に相手がいないようです。何かあったとしか思えません。」
メッセージが通じないのではなく、相手がいない。
つまり、相手はすでに死んでいる可能性が高いということだ。
「くっ、誰か動けるハンターや冒険者に連絡して調査をかけるしかないか。」
協会本部が情報を把握できないのは信用に関わる。
しかし、事態は一刻を争うかもしれない。
「え?本部長、外部からメッセージが、しかもこれは白継さん?監視者からです。」
良いタイミングだ。
「繋いでくれ。緊急の可能性もある。回線はオープンでいい。」
メッセージを協会本部の司令室全体に聞こえるように設定する。
「フミト本部長、白継です。」
文月フミト。
自身も魔物ハンターの経歴を持ち、若くして協会のトップに立った有能な人物である。
「白継さん、無事だったようで何よりです。先ほど、試練の島1468で異常な魔力反応を検知された件についての報告を……。」
「あなたが文月フミトさんですかな?」
メッセージに割って入る別の声。
くぐもったような声だ。
変声の魔法でも使っているのだろうか?
「誰だ。お前は。」
文月フミトは警戒した。
「私のことをお話するつもりはありませんが、ふむ、名乗らないのも失礼にあたりますか。私のことはrainydayとお呼びください。しがない流浪の民ですから覚える必要はありません。」
rainyday、聞いたことがない名前だ。
「それで、何の用だ。話に割り込んで来るのだから相応の理由があるのだろう?」
文月フミトは聞き返す。
「本部長、先ほどの魔力反応は彼らに関するものです。そして、彼らからの要求はたった1つ。試練の島1468を実験のために借りることです。」
白継からの報告、いや、これは要求なのか。
しかしなぜ白継がこんな。
「どういうことだ。試練の島で実験など、許可できるはずがない。」
危険度5の島での実験。
内容を聞かずとも分かる明らかな危険行為だ。
そもそもこんなことをする奴らがまともなはずはない。
「本部長、ダメです。ここは要求を飲ん……。」
白継の声が途絶える。
「許可を頂けないのですか。交渉決裂、いや、交渉の余地もなさそうですし、これは仕方がありません。『この話はなかったことに。』」
なんだ、音が聞こえる。
―考えるのをやめてただひたれば追憶の中でしあわせになれるのに―
これは……歌……なのか?
楽器?
司令室に響く謎の音。
まさか、先ほどのrainydayのスキルか。
「全員、試練の島をふう……さ…………。」
文月フミトの記憶はそこで途絶えた。
そして、数分後。
「白継さんからの定時連絡はどうしました?」
監視者であるはずの白継から連絡が途絶えて数時間が経過した。
「本部長、先ほど定時連絡を受け取りました。試練の島1468にて魔物の活性化が認められるとのことです。」
異様な魔力反応の正体はそれか。
文月フミトは決断する。
「試練の島1468を一時的に封鎖。事態の収拾に当たる。白継さんだけでは、魔物を狩るのが難しいことを考慮し、魔物ハンターに討伐を依頼する。現地に魔物ハンターがいるかどうかも確認してくれ。それから、すぐに候補を選抜、依頼を出す準備を。」
文月フミトは切迫する。
それから数時間の後、試練の島1468へ向かう魔物ハンター10組が選抜され、派遣された。
「学園の野外実習も近いのだ。今の時期に、魔物たちを暴れさせるわけにはいかない。」
文月フミトは急いでいる。