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  • 執筆者の写真DOYLE

国境線の獣:アナザーストーリー(時系列28)

アビサルとセレスティアの国境は、石造りの関所で隔たれている。

森と川のある国境には、プロムナード製の強力な魔道具によって高さ数メートルの結界がつくられ、空の往来以外はほぼ不可能。

それゆえに2つの国を隔てる関所は、日々多くの人が行き交う場所となっていた。


「通ってよし。」

「次の方はこちらへ。」

「積荷の確認はBの詰所へ。」


兵士と事務員のような服装をした者たちが忙しなく動いている。

アビサルとの国境だけあって、獣人や冒険者、魔物ハンターの姿もちらほら見られる。


「やれやれ、ここ抜けるのにまだしばらくかかりそうだなあ。」


独り言をつぶやく1人の若者が列に並んで立っていた。


「この様子だともう少しだけどね。」


すでに列に並んで30分以上が経過している。

アビサルとセレスティアの国境は、火山の影響なのか常に気温が高く、立っているだけでじわじわと汗が滲んでくる。


ただ、あと数人でやっと自分の番が回ってくる。

待っているのはアビサルへ行くための国境審査だ。


決闘を良しとする国であるため、基本的には武器でも何でも持ち込みは可能だが、入国のためには関所で名前を記録して、滞在期間を知らせておかなければならない決まりになっている。


「ぱるふ様、こちらへどうぞ。」


何とか順番が来たようだ。


「身分証をお出しください。それと、アビサルへの入国目的は何ですか?」


受付の獣人が聞いてくる。


「観光ですよ。」


そう言いながら身分証を差し出す。


「ぱるふ、おとしものP様ですね。それでは、滞在期間をお知らせ下さい。」


身分証を魔法でチェックされているのをぱるふはジッと眺めていた。


「7日間の予定です。」


ぱるふは、学園の入学試験を控えている。

実はアビサルへは昔馴染みの知り合いを尋ねて来たのだ。


「それでは、手続きは終わりましたので、お荷物の確認を受けてください。あちらになります。」


手の先を見ると、少し先に数人が並んでいる様子が見えた。

ここまで来れば、あと少しでアビサルに入れる。

この時間ならすでに入口のところまで、迎えが来ているはずだ。


ぱるふは、列に並ぼうと歩き出した。


うわああああああああああ


突然の叫び声と共に、爆発音のような音がぱるふの耳に響く。


「なんだ?」


どうやら、出口の向こう側、アビサル側の方から聴こえてきたらしい。


ドオォォォォオオオオオオン


再び大きな音が聞こえた。

何か硬いもので打ち付けたような音だ。


「何かあったんですか?」


ぱるふは、並んでいる列を先に行って、荷物の検査をしている担当者らしき獣人に声をかけた。


「いや、何も分からない。しかし、今の状況では……。」


再び音が聞こえ、最後に何を言われているのか聞こえなかった。

これだけの音だ。

爆弾でも爆発したのかもしれない。

ぱるふは、出口の向こう側にいるであろう知り合いのことを心配していた。


「ここ、通してもらえませんか?」


ぱるふはダメ元で聞いてみる。

答えは当然ダメだ。

安全と状況が確認できない以上、通すことはできないとのことだ。

ぱるふは、一度外に出て、別の方法で通してもらえないかどうかを交渉しようと背を向けた。その瞬間、轟音と共にアビサル側の出口が破壊された。


ぱるふは、背後で鳴った轟音に即座に反応し、振り向いた。

先ほどまで少し先に見えていた出口が、かなり大きくなっている。

どうやら周囲の石が破壊されたようだ。


よく見ると、誰かが倒れているのが分かる。外の光が照らしたのは兵士だった。


兵士が吹き飛ばされて出口にぶつかり、石の壁を粉砕したのだ。

どれほどの力でぶつけるとそんなことができるのだろうか。


ぱるふは、咄嗟に身構えた。


グオオオオオオオオオオオオ


巨大な雄叫びがかなり近くで聞こえた。

出口のすぐ外だ。


声と同時に、大きな衝撃波を感じた。


これは……大型の魔物がでたんじゃ?

トカゲアザラゴンという巨大な魔物の噂は、ぱるふも耳にしていた。


ぱるふは、アビサルとは反対側の出口に向けて走る。

大型の魔物には魔物ハンターでなければ敵わない。

先ほどの列には魔物ハンターたちもいたはずだ。


ぱるふは、あまり戦うのは得意ではない。

学園に行くのは、あわよくば魔法師団に入れたらいいくらいには思っているが、自分のスキルを磨き、国から公認の資格を得るためだ。


スキル名:ドットエフェクト


ぱるふのドットエフェクトは行動妨害系のスキルだ。相手の攻撃範囲を縮小することなどもできるのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。


ぱるふは走った。

滑るようにセレスティア側の出口から飛び出す。

そこには、大きな音を聞いてどうしようかと立ち尽くしている人々の姿もあった。


「壁の向こうに巨大な敵がいます!避難してください!魔物ハンターの方々は迎撃の準備を!」


ありったけの声で叫ぶ。

おそらく魔物ハンターだろう。

数名の者たちがこちらへ向かって走ってきている。


ぱるふは、後ろを振り向いた。


まだ追ってきてはいないようだ。


「………だ。」


こちらに走ってくる魔物ハンターたちが何かを叫んでいる。

ぱるふは、耳をすませたが、周りの逃げる音が混ざりうまく聞こえない。


「う……だ。」


後ろ?いや、何もいなかったはずだ。魔物ハンターたちが指をさして走ってきている。


「上だ!」


聞こえた!


上?どこの上だ?


まさか。


ぱるふは後ろを振り向き、関所の石壁の上を見上げる。


熊だ。

正確にはそこにいたのは熊の獣人だった。


手に握られた巨大なハンマー。

獣の皮を被ったような二足歩行の獣人だ。

しかし、ハンマー以上に、獣人から溢れ出るような魔力を感じる。

オーラとでも言うのだろうか、全身が赤黒く発光し、ハンマーまで及んでいる。


その時、ぱるふは、熊の獣人と目が合ったような気がした。

そして、熊の獣人が大きく跳ねた。

その跳躍力は、ぱるふの知る獣人族とは比べものにならない。

ぱるふを軽々と飛び越える。


飛び越える?


はっ!いけない!


「避けて!」


ぱるふの勘は的中した。

熊の獣人は、高い跳躍からぱるふの方へ向かっていた魔物ハンターたちにハンマーを振り下ろす。


ズドオオオオオオオオオン。


この音だ。

轟音と共に地面が抉れる。

先ほどの魔物ハンターたちは避けきれなかったのだろう。

もはや姿は見えない。


グオオオオオオオオオオオオ


雄叫びが響く。

この獣人は魔物化している。

ぱるふはそう思った。


魔物化した獣人族は自我を失うのだ。

熊の獣人がハンマーをあげると、そこには大きなクレーターができている。


そして、熊の獣人が、ぱるふの方を見た。


やばい……直感がそう告げている。


「オレ……ツヨイ……テキ……コワス」


熊の獣人が言葉を発した。


ぱるふは驚く。自我がある。


魔物化することなくこれほどの力を!?


そう思った瞬間、熊の獣人はぱるふを目掛けて跳び上がった。

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