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外伝:無知(過去編2)

  • 執筆者の写真: DOYLE
    DOYLE
  • 2019年7月4日
  • 読了時間: 1分

あの日から私は新しい家に住んでいる。

とても綺麗なお庭。

とても綺麗な廊下。

お父様やお母様も喜んでいる。

でも、どうしてだろう?


最近、私は何もせずにぼーっとしていることが多くなった。

お父様やお母様に名前を呼ばれても気がつかない。

お食事の時も気づいたら上の空になっていると言われる。

心配されてお医者様も家まで来たけれど、悪いところは何もないって言っていた。


でも、どうしてだろう?

前と何が違うのだろう。


私が「それ」に気がついたのは、ある日お部屋でぬいぐるみを抱いたときだった。


なぜか無性に寂しくなって、ぬいぐるみをぎゅっとした。

退院した時にお父様からもらったぬいぐるみ。

そして、あの人に名前を聞かれたぬいぐるみ。


そうだ。私はぼーっとしている時、あの人のことを考えていたんだ。


私の手をとってくれたときの綺麗な細い指。

綺麗な顔と声。優しく話しかけてくれた。

でも、何より嬉しかったのは、ぬいぐるみの名前を聞いてくれたこと。


もう一度、あの人に会ってみたい。


あの頃のヲキチはまだ「恋」という言葉を知らなかった。

 
 
 

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