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「擬態」の者:アナザーストーリー(時系列18)

「メッセージ。」


魔法を発動し、しばらく待つと向こうと接続されたことが確認できた。


「つながったようですね。m―a様、しおまねき様、つながりましたよ。」


異端審問官クリスエスはメッセージをオープンに切り替える。

ぐへへPとの会議を終えた後、彼ら3名は新たな国難に対処するための準備を行っていた。


「ありがとうございます。クリスエス殿。突然のご連絡を失礼する。私はセレスティア王国、情報官のしおまねき。そちらは夕立P殿でよろしいだろうか?」


称号、夕立P。

擬態の異名を与えられた者。


「え〜っ、どちら様ですか〜?あたし、何のことかわかんないんで〜、もう一回言ってもらえます〜?」


メッセージの相手からは、予想もしない声が聞こえてきた。


「クリスエス殿、これは……。」


しおまねきとm―aは呆気にとられているようだ。

明らかに若い女性の声。


「ふん。いつものことだ。」


クリスエスは落ち着いている。


「も〜っ、ひどいな〜クリスエスさん。そんなことばっかり言ってると〜、女性に嫌われてしまいますぞ、クリスエス殿。」


「なっ……。」


口調と声が突然変わった。

しかもこの声と話し方は……。


「驚かれましたかな?しおまねき情報官殿。私はたちやん。夕立Pの称号を頂いております。おっと、失礼、つい同じ声で。」


そう。

メッセージの先から聞こえてきたのは、しおまねきと全く同じ声だ。

気をぬくと自分が話しているのではないかと錯覚しそうになる。


「しおまねき様、私が変わろう。私は外交官を務めるm-a、夕立P、貴君に協力をお願いしたい。」


「おいおい、しおまねき様よ、俺みたいなフリーランスに声をかけるなんてどういう風の吹き回しだぃ?俺は高いぜぇ?」


今度はkentax剣闘師団団長の声だ


「やめろ、夕立P。」 


クリスエスが口を挟んだ。


「クリスエスの旦那、俺、最近ついてなくてよぉ。魔道具は壊れるわ、女は全然引っかかってくれないわで、そろそろでっかく儲けないと生活がヤバイんだわ。」


本当に団長が話しているように錯覚してしまいそうになる。

(これが、擬態か)

しおまねきとm―aはあからさまに警戒している。

それもそのはず。

これだけ本人と分からない声で話すことができるのであれば、悪用する方法はいくらでもある。


「また散財でもしたのか?貴様はいつも同じ過ちを繰り返してばかりだからな。」


クリスエスは情報屋として夕立Pに依頼をすることがあったらしい。

お互いに知らぬ中ではないのだろう。


「も〜っ、ひどいなぁ、クリスエスさんは。こんな可愛い美少女を捕まえて貴様だなんて〜。」


またしても先ほどの女の声になる。


「しおまねき様、m―a様、こいつの正体は男だ。そして、この夕立Pは特異体質でな。」


クリスエスの言葉にメッセージの先から反応が返ってくる。


「クリスエスさん、そこから先は俺が自分でいいますよ。」


口調がこれまでのモノと異なっている。

これが正体なのか?


「俺はたちやん、夕立Pの称号を持つ情報屋です。ちなみに、さっきまでのお遊びは、スキルではないので悪しからず。」


スキルではない?

では、魔法なのか?


「言っただろう、特異体質だと。魔法なのかスキルなのかすら不明だ。こやつの正体は私ですら知らぬ。だが、他者に化けることにおいては一級品でな。それゆえに擬態。」


しおまねき、m―aの2人はまだ驚きを隠せない様子だ。


「今しゃべっているこの声と話し方も、その辺にいた人のやつを適当に拝借してるだけなんで、俺自身のものではないですけどね。それで、クリスエスさんからの依頼は久しぶりですけど、値段が破格ですからね。内容と値段によっちゃ、引き受けますよ。」


夕立Pの力は危険だ。

悪意をもって使用すればあらゆる犯罪を起こすことすらできる。

しかも犯人に擬態して。


「クリスエス殿、かの者の存在は、もはや国家レベルの危機なのではないですか?」


m―aは外交官として国の危険を無視できない。


「悪いことしようとは思ってないですって、それに俺のこれはクリスエスさんには通じないんで。」


スキル「異端審問」。

クリスエスを異端審問官たらしめているスキルである。


「そういうことだ。だから、夕立Pのことはこの私が監視している。」


完全に納得はしていないようだが、2人は何も言わなかった。


「それで、ご依頼は?」


夕立Pの方から話を戻してきた。


「うむ、夕立P、お前にクロスフェードにある我が国の学園に行ってもらいたい。」


剣闘師団、魔法師団の団長たちの準備を他所に、国の中枢からは別の力が学園に送り込まれようとしていた。

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