「メッセージ。」
魔法を発動し、しばらく待つと向こうと接続されたことが確認できた。
「つながったようですね。m―a様、しおまねき様、つながりましたよ。」
異端審問官クリスエスはメッセージをオープンに切り替える。
ぐへへPとの会議を終えた後、彼ら3名は新たな国難に対処するための準備を行っていた。
「ありがとうございます。クリスエス殿。突然のご連絡を失礼する。私はセレスティア王国、情報官のしおまねき。そちらは夕立P殿でよろしいだろうか?」
称号、夕立P。
擬態の異名を与えられた者。
「え〜っ、どちら様ですか〜?あたし、何のことかわかんないんで〜、もう一回言ってもらえます〜?」
メッセージの相手からは、予想もしない声が聞こえてきた。
「クリスエス殿、これは……。」
しおまねきとm―aは呆気にとられているようだ。
明らかに若い女性の声。
「ふん。いつものことだ。」
クリスエスは落ち着いている。
「も〜っ、ひどいな〜クリスエスさん。そんなことばっかり言ってると〜、女性に嫌われてしまいますぞ、クリスエス殿。」
「なっ……。」
口調と声が突然変わった。
しかもこの声と話し方は……。
「驚かれましたかな?しおまねき情報官殿。私はたちやん。夕立Pの称号を頂いております。おっと、失礼、つい同じ声で。」
そう。
メッセージの先から聞こえてきたのは、しおまねきと全く同じ声だ。
気をぬくと自分が話しているのではないかと錯覚しそうになる。
「しおまねき様、私が変わろう。私は外交官を務めるm-a、夕立P、貴君に協力をお願いしたい。」
「おいおい、しおまねき様よ、俺みたいなフリーランスに声をかけるなんてどういう風の吹き回しだぃ?俺は高いぜぇ?」
今度はkentax剣闘師団団長の声だ
「やめろ、夕立P。」
クリスエスが口を挟んだ。
「クリスエスの旦那、俺、最近ついてなくてよぉ。魔道具は壊れるわ、女は全然引っかかってくれないわで、そろそろでっかく儲けないと生活がヤバイんだわ。」
本当に団長が話しているように錯覚してしまいそうになる。
(これが、擬態か)
しおまねきとm―aはあからさまに警戒している。
それもそのはず。
これだけ本人と分からない声で話すことができるのであれば、悪用する方法はいくらでもある。
「また散財でもしたのか?貴様はいつも同じ過ちを繰り返してばかりだからな。」
クリスエスは情報屋として夕立Pに依頼をすることがあったらしい。
お互いに知らぬ中ではないのだろう。
「も〜っ、ひどいなぁ、クリスエスさんは。こんな可愛い美少女を捕まえて貴様だなんて〜。」
またしても先ほどの女の声になる。
「しおまねき様、m―a様、こいつの正体は男だ。そして、この夕立Pは特異体質でな。」
クリスエスの言葉にメッセージの先から反応が返ってくる。
「クリスエスさん、そこから先は俺が自分でいいますよ。」
口調がこれまでのモノと異なっている。
これが正体なのか?
「俺はたちやん、夕立Pの称号を持つ情報屋です。ちなみに、さっきまでのお遊びは、スキルではないので悪しからず。」
スキルではない?
では、魔法なのか?
「言っただろう、特異体質だと。魔法なのかスキルなのかすら不明だ。こやつの正体は私ですら知らぬ。だが、他者に化けることにおいては一級品でな。それゆえに擬態。」
しおまねき、m―aの2人はまだ驚きを隠せない様子だ。
「今しゃべっているこの声と話し方も、その辺にいた人のやつを適当に拝借してるだけなんで、俺自身のものではないですけどね。それで、クリスエスさんからの依頼は久しぶりですけど、値段が破格ですからね。内容と値段によっちゃ、引き受けますよ。」
夕立Pの力は危険だ。
悪意をもって使用すればあらゆる犯罪を起こすことすらできる。
しかも犯人に擬態して。
「クリスエス殿、かの者の存在は、もはや国家レベルの危機なのではないですか?」
m―aは外交官として国の危険を無視できない。
「悪いことしようとは思ってないですって、それに俺のこれはクリスエスさんには通じないんで。」
スキル「異端審問」。
クリスエスを異端審問官たらしめているスキルである。
「そういうことだ。だから、夕立Pのことはこの私が監視している。」
完全に納得はしていないようだが、2人は何も言わなかった。
「それで、ご依頼は?」
夕立Pの方から話を戻してきた。
「うむ、夕立P、お前にクロスフェードにある我が国の学園に行ってもらいたい。」
剣闘師団、魔法師団の団長たちの準備を他所に、国の中枢からは別の力が学園に送り込まれようとしていた。