「ミコエル様、まきエル様より報告が上がってきました。」
ハザマノセカイで羽根と傘に十分な魔力を溜めた大天使ミコエルは魔力を失わぬよう、護衛のモケケと共に静かな時を過ごしていた。
「進捗はどうですか?」
まきエルは雨乞いの儀を執り行うための祭壇づくりをミコエル教徒の人々と急いでいたはずだ。吟遊詩人のこるんは雨乞いの歌の作成を、そして、桐……いや、桐エルが砂漠地帯に赴いていたはずだ。
モケケからの報告では、すでに各国へ雨乞いの儀を行うことは報告済みで、承認も降りているとのことだった。
砂漠地帯の住民たちから、連日のように祈りが届けられているとも聞いている。
「雨乞いの儀の準備が整ったとのことです。まきエルは神殿を完成させ、すでに桐エルと合流しました。吟遊詩人こるんからも歌の完成報告が上がってきています。」
ミコエルの羽がふわりと広がる。
「できましたか。それじゃあ、私たちもそろそろ行かないとですね。」
魔力が十分に溜められたミコエルの羽は少し揺れるたびにその残滓がキラキラと輝く。
荘厳とは、このためにある言葉なのだろう。
「お供します。『アトラスの軌跡』、必ず成功させましょう。」
モケケはミコエルと共にハザマノセカイから出る準備を整えていく。
場所を移し、地上を覗けば、セレスティアの東にある砂漠地帯の端、プロムナードと海峡を隔てる国境となっている場所に巨大な祭壇が建設されていた。
ドイルが転生してくる前にいた世界では、マヤ文明の遺跡にある石造りの祭壇が最も近い形状だろう。
雨乞いの祭壇は、高さ数十メートルはあろうかという大きさで、全てが石で作られている。
石段を登りきった先には、大天使ミコエルに歌を捧げるための魔力装置が置かれていた。
祭壇の周辺には魔道具による強力な結界が張られており、並大抵の魔法では貫通できなくなっている。
強い魔力は、魔物たちを引き寄せる可能性があるが、ミコエル教の強力な魔法使いたちに加え、今回はプロムナードとセレスティア、そしてプリズムからの応援も来てくれることになっている。
「そちらの確認はできたか?」
牧野、いや、まきエルは祭壇の最終チェックを行っていた。
「できましたよ。プロムナードとプリズムからの応援も到着しました。」
答えたのは桐エルだ。
まきエルと共にミコエルに仕えているが、普段はシルバーケープで文月フミトに協力したりもしている。
「それでは、こるん様にメッセージを。彼女が到着次第、雨乞いの儀を始めます。信徒たちには、私から伝えましょう。」
まきエルは祭壇を見上げた。
空は青く、雲ひとつない。
雨乞いの儀まで、あと数日である。