馬車が到着した場所は森から少し離れたところに立つ貴族の屋敷だった。
「着きましたぞ、ユーリ様。」
爺やが馬車のドアを開ける。
「そう……。」
この屋敷はもう彼女にとって、自分の家ではない。私の居場所は、あの森の中だけだ。
「ユーリ、お前はリッカの貴族として正しい振る舞いを……。」
「リッカの貴族の娘は、あなたの歳には代々プロムナードの貴族の男と婚約しているのにお前と来たら……。」
「お前をセレスティアの学園に入れる。貴族としての振る舞いを身につけ、婚約者を見つけて来い。」
「貴族の男性と結婚するのが、あなたのためなの。子どもを産んで、育てることが家を守ることになるのよ。」
もううんざりだ。
自室に戻ったが、もう荷物はほとんど残っていなかった。
どうやら生活用品は先に送られてしまったらしい。
残ったのは、この剣とセレスティアまでの数週間の旅をするための服くらいだ。
さすがに、独りでセレスティアまで行けとは言われなかった。
そのくらいの良心は残っていたらしい。
夕食は鹿肉のフルコースだった。
でも、同じ食卓を囲む者は誰もいない。
いつからだろう、家族で食卓を囲まなくなったのは。
その日の夜、ユーリは使用人たち見送られながら家を経った。
学園が始まるまでには、まだしばらく時間があるそうだが、早くセレスティアでの生活に慣れるようにと父が予定を早めたと言っていた。
セレスティアの首都クロスフェード。
ファンド王が治める地。
そこにある学園は、あらゆる身分の者たちが暮らす場所だと聞く。
セレスティアは自然に囲まれた豊かな大地。
私の住むリッカは、プロムナードの属国。
かつての戦争の時に占領され、国としての対面は保っているものの、国の政策のほとんどはプロムナードの言いなりだ。
セレスティアは友好的な国だと人はいう。
それでも関係ない。
楽しいことなど何もない。
ユーリはこれからの生活に何も期待していなかった。
ユーリのセレスティア到着まであと2週間程である。