王城にある居室でヲキチは一人、王の帰りを待っていた。
ぐへへPは、部下たちを連れて市街地の視察へ出ている。
以前に話した時には国民の声を国の運営に活かす、とそれっぽいことを言っていた。
連れて行って欲しいと言おうかと思ったが、ヲキチが行くと少しややこしいことになる可能性があるため、最近は少し自粛していた。
周囲からは王妃と呼ばれているが、実はヲキチはまだ正式には王妃ではない。
婚約はしている。
結婚の予定はある。
近々、両親への挨拶という一大イベントも行われる予定だ。
でも、ちゃんと王妃になるまでは、あまり王の横に並んで歩くようなことは避けた方がいいかもしれないと勝手に思っていた。
ぐへへPはそんなこと気にも留めないだろうが、こういうのは手順が大事なのだ。
コンコン
部屋がノックされ、外から声が聞こえる。
「ヲキチ様、ファンド王がお戻りになりました。すぐにこちらへ来られるそうです。」
どうやら何事もなく帰って来たらしい。
良かった。
普段は王城で仕事をこなすことが多いからか、たまに外に行くと言うとつい心配になってしまう。
「ヲキチ、ただいま。」
ドアを開けて、ぐへへPが入ってくる。
外遊の服装をそのまま身につけているため、本当に帰って来てすぐ部屋に来たのだろう。
「おかえりなさい。」
よく見るとぐへへPが手に何か持っている。
「今日は、街で流行している食べ物を買ってきたよ。」
袋に入ったそれは部屋に入ってきた時から、香ばしい香りを漂わせていた。
「これは?」
中身が気になる。
この香りはおそらく肉の脂だ。
「ハンバーガーって言うらしい。パンに肉や色々なものを挟んだ食べ物だって。」
袋の中から紙で出来た手のひらに収まるくらいの包みを出す。
「紙の包みに入っているのに、とても美味しそうなにおいがするのね。そっちは?」
匂いだけで食欲がそそられる。
もう一つ、今度は上の部分が開いた箱のようなものに刺さった大量の細長いものが見える。こちらは油で揚げたもののようだ。
「これはポテトって言うらしい。細くしたジャガイモを油で揚げたもので、塩をかけてあるからそのまま食べられると……ってこら、説明してる横で先に食べるなよ。」
ぐへへPがポテトと呼んだ箱に入ったものを手渡してくれたので、口に入れてみた。
サクッとした食感の後にジュワッと油が広がる。
噛むとすぐにほどけるようになくなってしまうので、何本でも食べられそうだ。
「早いもの勝ちです。そもそも、食事というものはまさに闘いのようなもの。美味しいものは、先に食べた者が勝つのです。」
そう言いながらポテトを口に放り込む。
「ちゃんと分けて一緒に食べようよ、いいけどさ。元々、君のために買ってきたんだし。」
ぐへへPは笑いながら買ってきたものを机の上に並べている。
ハンバーガーとポテト以外にも飲み物がついているらしい。
鳥の肉を揚げたものもあると教えてくれた。
「ヲキチ、最近ずっと城にいたから、たまにはお城の外の物も食べてみたいんじゃないかと思って。お城の料理ばっかりじゃ飽きるだろ?この間も、勝手に厨房を使って料理してたって聞いたし。」
バレてる。
これだけ長くお城にいると、同じメニューが出てくることも多い。
それに、もともと田舎の方に暮らしていたこともあって、堅苦しい料理ばかりを食べることに慣れていない。
だから、昔食べていた料理を再現してみたくなって厨房に立ったのだ。
それに……ぐへへPに私の故郷の味をってちがう。
そんなこと考えてる場合じゃない。
「あっ、あれはちがうの。」
とりあえず否定してみるが、脈絡もない。
「ん?」
しかも机のセッティングを勝手に進めているぐへへPの耳には届いていなかったようだ。
「なんでもないです〜っ。」
よかった。
聞かれてなかった。
「じゃあ、ほら、二人で食べよう違う種類のものを買ってきたんだ。」
いつもとは違う。
広い食卓で食べる専属の料理人が作るような高級な料理ではない。
それなのに、この美味しさは何だろう。
ぐへへPが街で見た、たわいも無い話を聞きながら、二人の午後の時間は進んでいった