王妃の生家へ挨拶にいくファンド王の護衛として、剣闘師団のよだかが選抜された。
団長であるkentaxが、アビサルの国境線で起きたとされる事件の調査にいくため、クロスフェードを出たためだ。
挨拶とはいえ、王家の婚姻に関することは大きなもので、剣闘師団に加えて、魔法師団の団長、泡麦ひえが直々に姿を見せている。
すでに王と王妃は、転移の魔法で王妃の生家の近くに来ているが、よだかは先遣隊として周辺の安全確認に出ていた。
剣闘師団は、魔法などで見つかることを防ぐ敵との戦いを見越して、気配で人や動物の姿を感じ取る訓練を受けている。
実はよだかは気配を感じ取ることに秀でており、それゆえに王の護衛にも選ばれていた。
「魔法の探査から逃れるような相手がいて戦闘になったらどうすりゃいいんだ。」
よだかは剣で草木を払いながら森を歩く。
周辺はわりと拓けている場所のため、少し行くと広い道が見えた。
ここを抜けて何も引っかからなければ、安全確認も終了だ。
森を抜ける。
ここは、王妃の生家につながる一本道のはずだ。
「ん?この気配は?」
少し先に誰かの気配を感じる。
おそらく、道をこちらに向かって歩いてくる者がいる。
魔法師団の探知にもかかっているかもしれないが、まだメッセージは来ていない。
殺気を感じない。
つまり、害があるようには思えないが、確認は必要だろう。
よだかは、草葉の影に身を隠し、通る者を待っていた。他の団員にもメッセージをとばす。
『気配遮断』。
剣闘師団が使える魔法によって自らの気配を消す。
気配が近い。
おそらくもうすぐ目の前を通るは……
「こんなところから人を覗くのはいい趣味とは言えませんね。」
背後を取られた!?
よだかは咄嗟に草むらから飛び出し、道に転がり出る。
前回りをして飛び退くような形になったが、よだかはすぐに草むらの方に向き直り、剣を構えた。
「何者だっ。」
よだかの声に合わせて草むらから、ロングコートを着て、帽子を被った男……だろうか、性別がはっきり分からない、何かが姿を見せる。
雪でできているのか?
「雪でできているのが不思議かい?俺は妖精族の中でもスノーマン種でね。」
妖精族スノーマン種……プロムナードの北側にいると聞いたことがある。
「あと、何者だってのはないだろ、そっちが俺を先に監視してたんじゃないか。」
まさか、見られていることに気づいたのか?
こいつも気配を察知できるのかもしれない。
警戒を解くことなく、よだかは答える。
「セレスティア王国剣闘師団、よだか。」
名乗らないのは騎士道に反する。
「俺はZutq。ラングドシャPの称号を頂いている、しがない雪だるまだよ。」
ラングドシャP。
称号持ちか。それなら……
「勝手に監視したことについては謝罪します。こちらに争う意志はありません。事情を話させて下さい。」
よだかは、剣の先を下に向けた。
「いいぜ。剣闘師団とやり合うつもりはないしな。」
ラングドシャPは両手をあげた。
よだかも、それに合わせて剣を収める。
戦ったら恐らく負けていた。
よだかは気配を察知していたが、このラングドシャPは、自らの気配を偽っていた。
恐らくこちらの存在に気づいて即座に対策をしたのだろうが、それほどの相手ということだ。
「それで剣闘師団様がなんでこんな辺鄙なところにいるんだい?」
ラングドシャPをどこまで信頼してよいのかは分からない。
「私たち剣闘師団はこの先の屋敷に任務のため向かうことになっています。私はその先遣隊です。」
よだかは、相手に詳しい内容が分からないように要点を伝えた。
「あ〜なんだ、ヲキチさんとこに行くのか。っと、いけねえ、王妃様だっけか。俺は王妃様のお屋敷に依頼された物を届けに行った帰りだよ。これでも、冒険者の端くれでね。」
王妃をヲキチと呼ぶだけでなく、王族に類する者からの依頼を受ける冒険者だと?
「それは失礼しました。王妃様のお知り合いとは思わず。ラングドシャP様とお呼びすれば?」
よだかは、まだ警戒を緩めたわけではない。
「ズクさんでいいよ、俺もよだかさんと呼ばせてもらうからさ。」
軽いノリがむしろ不信感を煽る。
「わかりました。それでは、ズクさんとお呼びします。」
よだかは、ラングドシャPの強さの底が測れずにいる。
「そんな怖い顔するなよ。警戒してますって顔に書いてあるぜ。俺は敵じゃねえよ。敵は……あっちだ!『サイバーダンス』」
ラングドシャPが何を言っているのか、よだかは一緒理解できなかった。しかし、その瞬間、ラングドシャPは一気に加速し、反対側の茂みへとつっこんだ。
「おら、『フリージングコフィン』!」
氷の障壁が何かを包む。そのままラングドシャPはその氷を叩き割った。
ドサッ。何かが倒れる音がする。
「おい、よだかさんとやら、探し物はこいつだろ?」
ラングドシャPがこちらにむかって何かを投げてきた。
地面に落ちたものを見て、よだかは驚く。
それは蛇型の魔獣の首だった。
蛇の魔獣は隠密に優れる。
木の上や岩の陰に潜み、人を襲うこともある凶暴な魔獣だ。
よだかはラングドシャPに気を取られ、蛇の魔物の気配を見逃していた。
「蛇の魔獣に気がついたというのですか?」
王がこの道を通ることを考えると、恐ろしいことになったかもしれない。
「俺たち、妖精族はそういう気配に敏感なんでね。あ〜申し訳ないけど、俺はそろそろ行くわ。クロスフェードの組合に呼ばれてるんでね。」
ラングドシャPは蛇の魔物の死体を氷で固めて処理すると、茂みから出た。
「ラングドシャP、疑ってすみませんでした。あなたは強い。次はぜひクロスフェードでお会いしたい。」
よだかは、ラングドシャPの強さの片鱗を見た。
剣闘師団は強さこそが信頼の証。
それがkentax団長の教えだ。
「そうですねぇ、ただ意味も無く灰は風に流されると言いますし。どこかでお会いすることもあるでしょう。『フリージングミスト』」
氷の礫がラングドシャPを取り巻き、よだかの視界を同時に塞いだ。
咄嗟によたがは目をそらした。
その瞬間にはラングドシャPの姿は消えていた。
「もう行ったのか。ラングドシャP、ズクさんか。覚えておこう。」
よだかはそう言うと、ファンド王たちが待つ場所へと戻っていった。