「ミコエル様。由杞様から、雨乞いの儀に向けた魔道具が届きましたよ。」
ドイルを送り出した後のハザマノセカイ。
どうやら大天使はあの時作った森林が気に入ったらしく。森の中にコテージを作り、木製のテーブルとイスで森林浴を楽しんでいた。
「モケケちゃん、ありがとう。」
モケケは、大天使ミコエルのボディガードを勤める者。
甲殻類のカニを模した姿をしているが、水棲生物ではなく、水神の一角を担う神族である。
モケケは、ミコエルに頼まれて雨乞いの儀の準備に奔走していた。
深海の国プリズムへ訪問し、しょこらどるふぃんに面会した。
ほとんど外に出ることのない四天王の情報を収集し、雨乞いの儀に介入してくるつもりなのかどうかを確認することを試みた。そして、現在、まきエルの指導のもとで砂漠地帯の付近で祭壇づくりが急ピッチで勧められている。
その間、ミコエルは魔力を貯めておかなければならず、モケケはミコエルの側を離れるわけにはいかない。
「あとは祭壇の完成と、こるん様の歌の完成を待つばかりですね。」
信者たちの間にはすでに話を広めている。
雨乞いの儀の日取りさえ決まれば、信者たちは集まってくれるだろう。
「そうだねぇ。うわぁ、かわいい。」
ミコエルが由杞からの魔道具を見て声をあげた。渡されたのは傘の魔道具。
ミコエルの白い服、青い髪に合わせた色彩になっている。
「どうやら、この魔道具には余剰分の魔力を貯めておける機能があるそうです。ミコエル様、魔力を流してみて下さい。」
ミコエルが魔力を流すと、淡い青色の光が魔道具に灯る。
スキルによって魔力が自動的に回復するミコエルにはうってつけの魔道具である。
「アトラスの軌跡を発動した後、この魔道具に貯めた魔力を回復すれば、少しは安全でしょう。」
モケケは雨乞いの儀でミコエルを護衛する責任者でもある。
ミコエルは気に入った様子で、傘をさして鼻歌混じりだ。
「ほら、ミコエル様、魔道具に限界まで魔力を込めてから回復に努めてください。」
魔道具の説明を読む限り、魔力の蓄積量は3000。
かなりの数値だ。
「わかってるよぅ。モケケちゃんは心配しすぎだから。」
ミコエルは信者の力がある限り、その力を失うことはなく、死ぬこともない。
それは疑いようのない事実だ。
でも、モケケはミコエルが毎回復活することに何のリスクもないとは考えていなかった。
ミコエル自身は何も語らないが、モケケは何かあると思っていた。
かつての戦争の中、ミコエルは何度も命を落とし、復活してきた。
信者を庇い、味方を庇い、時には敵になる者すら守り抜いた。
モケケも戦いに参加していた。
ただし、敵として。
そう、モケケはかつてミコエルを殺そうとした者の1人である。
ミコエルに戦いを挑み、敗れ、そして、赦された。
「私と一緒においでよ。」
敗れたモケケにミコエルは手を差し伸べた。
その時から、モケケはミコエルのボディガードを勤めている。
自分より弱い者がボディガードを勤めることに何も言わず、まるで仲の良い友達のように笑ってくれる。
これほど嬉しいことはない。
モケケはミコエルの魔力が傘に移されていくのを見ながら、雨乞いの儀の成功を祈っていた。