彼との初めての出会いから3ヶ月。
お父様が私をお城に連れて行ってくれることになった。
私がこの間、お部屋でぬいぐるみを抱いている時、お母様がお部屋に来た。
どうしたの?と心配そうに聞かれたから、王子様のことを考えていたと正直に伝えた。お母様はとても驚いていた。
それからお母様は私に王子様のことを聞いてくれた。
私は夢中で王子様のことを話した。
ぬいぐるみの名前を聞いてくれたこと、お父様と王様が話している間にお城の中を案内してくれたこと、お母様は嬉しそうに聞いてくれた。
その日の夜、私がおトイレに起きた時、お父様とお母様がお話していて、お父様が泣き崩れていたのだけれど、私には何のことか分からなかった。
お城に行く馬車から見た景色は前に乗ったときよりもずっと綺麗だった。
お城に着くと、お出迎えの人がいた。
「ヲキチ様、ファンド様がお待ちです。」
お父様は、優しく「行っておいで」と背中を押してくれた。
この間、案内してもらった赤と白の薔薇がたくさん咲いたお庭。
きっとあの人はここを抜けた先にいる。
案内してくれるはずの人よりも早く、私は夢中で走っていった。
お庭の真ん中。
薔薇に囲まれた椅子と机のある場所に、あの人は座っていた。
私を見つけたあの人はゆっくり立ち上がると、こちらに歩いて来る。
今思えば、全速力で走りすぎて、私は肩で息をしていたのかもしれない。
「ファンド様!」
彼の姿を見つけた私は大きな声で名前を呼んだ。
「そんなに急がなくても、私はどこへも行きませんよ、ヲキチさん。」
綺麗な笑顔だなと思った。
「お久しぶりです。私に会いたいと言ってくれたそうで、とても嬉しかったですよ。でも、あまり大きな声を出すと、お花たちも驚いてしまいますので。」
口元に指で手をあてて、静かにというサインを出す。
私はぬいぐるみを抱いたまま、彼の細くて長い指に魅入っていた。