魔物ハンター:アナザーストーリー(時系列6)
- DOYLE

- 2019年6月15日
- 読了時間: 4分
「ご苦労、下がっていいぞ。」
兵士から受け取った報告書に目を通すと、手を振って出て行くように指示を出した。
「このタイミングで人語を話す魔物が出現するとはな。」
トカゲアザラゴンなる魔物の存在は王国に激震をもたらした。
魔物を喰らう巨大な魔物。
これまでの「魔物は魔物を食べない」という常識が覆された。
生態系の頂点にでも君臨すると言うのか。
そのような魔物を王国が放置したとあっては、国の威信と存続に関わる。
そして、王はトカゲアザラゴンの討伐に莫大な懸賞金をかけ、最重要クエストに指定した。
異端審問官・クリスエスの元にもその報告が届いたのだ。
「こんなことに時間を割いている場合ではないと言うのに……。」
ミコエル教のためにKAIから告げられた4人の異端者の所在を探らなければならない。
クリスエスにとっては、トカゲアザラゴンよりもそちらの方が重要だった。
しかし、王からの勅旨を無視することはできない。
と言っても、彼のスキル『異端審問』は基本的には対人スキルである。
生物であれば使えないことはないが、これまでに実験したことはない。
今後のことを考えると一度、試しておくべきかもれしれないなどと考える。
「致し方あるまい。」
そう言ってクリスエスはメッセージの魔法を発動した。
「はい、どちら様でしょう?」
メッセージの魔法は成功したようだ。
「クリスエスだ。少し頼みたいことがあってな。」
「珍しいね。クリスエスさんが頼みごとなんて。」
メッセージ越しにおどけたような声が帰ってくる。
「トカゲアザラゴンの噂は聞いているか?」
「ええ、聞いてますよ。魔物ハンターの間ではもう討伐に向かう奴らも出てきています。」
魔物ハンター。レミルメリカに出現する魔物を討伐する職業だ。
「それなら話が早い。どうだ、討伐できそうか?」
クリスエスは魔物ハンターにトカゲアザラゴンを討伐させることにしたのだ。
「どうかなぁ〜?随分と強いみたいだしねえ。」
強いとは言いながらもその声には自信が溢れているように聞こえる。
「ふん。相変わらずだな、『めた』。チームの編成もお前に任せる。今回は国も絡んでいるからな報酬も言い値で払ってやる。」
「随分と気前がいいね。」
メッセージに他の声が割り込んできた。
「お前が『きいち』か。」
こちらは女性の声だ。
めたのパートナーとして名を馳せている女だと聞いている。
「クリスエスさんって言ったかな?うまい話には裏があるってのが昔からの教えだろ?ちがうの?」
かなり若い声のようだ。
たしか、きいちの方は学園に通う程度の年齢だと言っていたな。
「ふん、私自身が討伐隊を率いても構わんのだが、他にやるべきことがあるのでな。魔物ハンターであるお前たちの力を有効に使おうと言うわけだ。」
「ふーん。」
クリスエスの発言が本気だとは到底思えないらしく、きいちは適当な答えを返した。
「何でもいいよ、報酬分の仕事はするさ。」
めたは、あまり気にしていないようだ。
「お前の腕だけは信用している。こちらが得ている情報は後で部下に持って行かせる。受け取ってくれ。」
「久々の大物ですからね。楽しみにしておきますよ。」
めたから、討伐を引き受ける旨を受け取ると、クリスエスはメッセージを解除した。
魔物ハンターは、国が運営する協会に所属し、魔物を討伐することで報酬を得ることを生業にしている。
めたときいちは、魔物ハンターとしてこれまで何度も大物を屠ってきたことで有名だ。
王国を襲った大鷲の魔物、伝説級とさえ言われたドラゴンが魔物化したものを倒したとさえ噂されている。
どこまでが本当の噂なのか分からないが、彼らならトカゲアザラゴンの求める「強き者」にも当てはまるだろう。
彼らでも「強き者」でないとすれば、この国の戦力だけでは、トカゲアザラゴンの討伐は難しい可能性も出てくる。
「万が一、捨て駒となっても手傷くらいは負わせてくれるだろうな。めた。」
せいぜい役に立ってくれ、とでも言わんばかりだ。
最後には自分の手で倒せばいい。
クリスエスはそう考えていた。
対人用とはいえ、彼のスキルを使えばできないことはないだろう。
後方の憂いを絶ったと確信したクリスエスは、再び彼の職務に没頭し始めた。
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