神獣降臨:アナザーストーリー(時系列1)
- DOYLE

- 2019年6月14日
- 読了時間: 3分
更新日:2019年8月16日
街道を兵士たちが走っている。彼らは雨の中を必死に現場に向かっていた。
「いそげ、雨に負けるな。」
ひどい雨が大地を打つ音に合わせて、ぬかるんだ地面を走る兵士たちの足音が響く。
レミルメリカの地には久しぶりの雨が降っている。
そんな時、城にいた兵士たちに出動命令が下ったのだ。
街道に大量の魔物が出現し、行き交う馬車を襲っているとのことだ。
ここ最近、魔物の動きが活発化している。
ようやく現場にたどり着いた時、兵士たちはそこに広がる光景に言葉を失った。
「ひどい……」
誰かがつぶやく。
兵士たちが見たのは魔物に襲われたと思われる馬車の一団だった。
馬車はめちゃくちゃに壊され、馬車に乗っていたのであろう人の遺体が散らばっている。
馬も死んでいるようだ。
見た限りで生存者はいない。
おそらく抵抗したのだろう。
数体の魔物の死体もある。
降っている雨が、血を地面に流し、川のようになっている。
その惨状に兵士たちは呆然と立ち尽くしていた。
ドサッ……
音が響いた。
兵士たちが音に反応して武器を構える。
ドサッ、ドサッ……
また音がした。
どこだ?どこからだ?
音は近い。
「うわぁぁぁぁぁ」
兵士の1人が叫び声をあげた。
兵士たちが声の方を向くと、そこには熊だろうか、魔物の首だけが転がっていた。
ドサッ……
再び音が響く。今度は違う方向だ。
「う、上だ!上にいるぞ!」
全員が咄嗟に空を見上げる。
なっ……
そして同時に息を呑む。
兵士たちは見た。
「おお、なんということだ……」
「これは……魔物なのか……」
口々に声が漏れる。
彼らが見たのは、巨大な体躯をもつ魔物。
魔物を食べる魔物であった。
食べ終えた魔物なのか、口からはみ出した魔物たちの肉片が地面に落ちていたのだ。
大雨で視界も悪く、上空の敵を見落としていたらしい。
だが、その魔物の姿を見た兵士たちは全員が死を覚悟した。
頭部には長く伸びた3本の角。
身体は大きく、背中にはコウモリのような大きな翼が生えている。
こんな魔物は見たことがない。
こいつはいったいなんだ……。
兵士たちは躊躇していた。
熊の魔物すら捕食するような敵とどのように戦うというのか。
彼らは兵士ではあるが、戦士ではない。
スキルを鍛え上げた冒険者たちほどの力はないのである。
ふと見上げると、怪物がこちらを見ているのが分かった。
その目は黒く光り、雨の中でも的確にこちらを捉えている。
本当にやるしかないのか?
そう思ったとき、兵士の耳に声が響いた。
「引け、人間共。そのまま下がれば危害は加えぬ。」
誰の声だ?
「聞こえぬか?武器を下ろして下がれ。」
まさか、魔物の声なのか?
兵士たちはお互いに顔を見合わせる。
兵士の1人が恐怖で震えながら武器を落とした。
それもそのはずだ。
魔物が言葉を発するなど聞いたことがない。
ただでさえ、強い魔物に、知性がついたかと思えばそれだけで恐怖である。
「戦を前に武器を落とすとは、お前たちは敵にすらならぬようだ。」
頭の中に響くような重い声だ。
「良いか、弱き者たちよ。我は強き者を望む。」
魔物の声はもはや兵士たちに興味を失ったようにも聞こえる。
それはそうだ、もはや敵対できるような相手ではない。
神話の産物であるドラゴンですら、人の言葉を喋ることはできないのだから。
魔物は続ける。
「我はトカゲアザラゴン。古より君臨する者。天空の頂にて、強き者を待っている。」

(illustrated by そらうみれい)
魔物はそう言うと、背中の翼を羽ばたかせ、瞬く間に上空へと消えていった。
トカゲアザラゴンの羽ばたきによって雲が割れ、周りには雨が降っているというのに一部だけ太陽の光が照らされる。
羽根を震わせるだけですべてを破壊しそうなほどの強敵の出現。
後に残された兵士たちは雨に打たれながらしばらくの間、何もできず立ちつくすしかなかった。
『神獣・トカゲアザラゴン』
この一件以来、『レミルメリカ』では、魔物を喰らう魔物の存在が噂されるようになる。
強き者……あれだけの魔物を倒せる者が本当に現れるのだろうか。

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<おまけ>
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