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ミコエル神殿の章(本編2)

  • 執筆者の写真: DOYLE
    DOYLE
  • 2019年6月15日
  • 読了時間: 17分

大天使ミコエル、運営神TOMOKI++

2人の契約書を入手した俺は、タブレットを片手にハザマノセカイの出口の前に立つ。


ミコエルの言った通り、少し歩いた場所に灰色の石で作られたドアが立っていた。

ちなみに、『子どもでもよくわかる魔法』はもう使っておいた。


使い切りと書かれていた通り、一度使うとなくなるらしい。

こちらの世界にはどうやら便利な魔法があるらしく「本の内容をまとめて頭の中に入れて読んだことにできる」らしい。


おかげで時間をかけることなく、魔法の基礎を身につけることができた。

「メッセージ」などの基本的な魔法はこれで使えるようになったはずだ。

元いた世界にこの魔法があれば最高だったんだけどな……


「しかし。まさかあんな大金が振り込まれているとは、TOMOKI++さんは俺に何をさせるつもりなんだ。」


ボカロ丼なら「タダより高いものはないのです」って言われそうだ。

さて、どうやらこの先がレミルメリカにつながっているらしい。


うーん、このドアみたいなのどこかで見たことあるぞ。どこだったか思い出せないけど。


ドアがどこに繋がっているのかは分からないが、まさか「壁の中にいる」なんてネタみたいなことにはならないだろう。


ドアノブに手をかけて、回す。

ドアは思いの外、簡単に開いた。

ギイッ……

効果音がホラーゲームのドアと似ている。


「いざ、『レミルメリカ』へ。」


ドアをくぐると、目の前にはすべてが先ほどのドアと同じ灰色の石材で作られた空間が広がっていた。


これは……


ドアを出た俺の目に飛び込んできたのは石で作られた十字架だった。

石のくぼみが十字架の形になって、そこからオレンジ色の光が漏れている。

ステンドグラスか何かがはめ込まれているのだろう。

夕日に照らされているかのようだった。

それなりに高さもあるようだが、左右はどちらも壁になっている。


カタコンベ……

俺の頭に最初に浮かんだのはかつてキリスト教者たちがつくった地下墓地だった。

ここはどこだろうな。


こういう時は焦ってはいけない。

俺は冷静に辺りを観察してみることにした。

周りは灰色の石材に囲まれて薄暗く、目の前にある十字架はオレンジ色の光を放っている。

十字架の下には先へ進めるような穴が空いているが、その先も薄暗く、点々とあるロウソクだけが見えている。


よく見ると十字架の左右には旗のようなものが飾られている。

形は長方形。対角線上に赤と黄色の線が引かれ、4分割された下側と右側は白色、上側と左側は黒色に塗られている。長方形の中央には、緑色の歯車のような模様が描かれているのが確認できる。


国があるとミコエルも言っていたし、どこかの国の紋章かもしれない。

ドアを開けた手を離し、一歩を踏み出す。

同時にドアが再びギイッという音を立てて閉じる。おそらくこのドアはもう開かない。


時間が経てば消えるのかもしれないな。

後ろを振り向いてみるが、同じような石材が積まれているばかりだ。


どうやらここが行き止まりのようだ。

となれば、行く先はこの先の通路になるわけだが、闇雲に進むのは危険すぎる。

タブレットを開き、マップを起動する。

マップが場所の名前を映し出した。


…………

ミコエル神殿(地下礼拝堂通路)

…………



ree

(made by kentax)



地下の礼拝堂か、どうりで。


というか、ミコエルは俺を自分を祀る神殿に飛ばしたらしい。

どうしてここに?


天使のすることだ。意味があると信じたい。

次にサーチの範囲を広げ、10キロメートルの範囲を探る。

神殿のすぐ後ろは青い模様が描かれている。


これは……海か?

近くには神殿以外の建物らしきものは発見できない。

それ以外の場所は茶色くなっている。

砂漠かそれとも草原か、どちらにせよこの神殿は孤立した場所に立っている建物のようだ。


マップの特定の場所を触ると名前が表示されることは確認済みだ。

俺は海のような場所を触ってみた。


…………

海:ムーンアイズ

…………


名前がちゃんと付いているようだ。

てことは、こちら側の茶色いところも名前があるのかな?


…………

草原:セレスティア

…………


マップだと外観までは分からないが、どうやら草原の中に立つ神殿のようだ。


「街や村は近くにないのか。」


始まりの街がある場所からスタートするとばかり思っていたから意外だった。

やはり現実は、RPGのテンプレのようにはいかないな。

マップの範囲を元の地下礼拝堂の通路に戻し、次はサーチを使用する。

これで近くに何かがいれば引っかかるはすだ。


頭の中に、地図が描かれ、赤い点がいくつも現れる。

海にある多数の赤い点は……魚か?

やたらと動いているからおそらくは魚で間違いない。

草原にも数が少ないが動いている点がある。

動物か人だろうが、これだけ数があると特定できない。


「単純にサーチを使うだけじゃ、いろんなものを巻き込むのか。」


そういえば、本に書いてあったな。

『サーチの対象は発動のときに対象を具体的に指定することで限定することができます』


そうか。それなら……


サーチ:人間


頭の中に地図が表示されるが、赤い点は1つも現れない。

てことは、このあたりには誰もいないということだ。

よし、それなら先に進んでみるか。

どうせ外に出ないといけないしな。


ついに、俺はレミルメリカでの冒険をスタートした。


しばらく薄暗い廊下を進むと石で作られたドアが目の前に立ち塞がった。

地下礼拝堂への入り口ということになるのだろうか。迷路をゴールから逆走した気分だ。


ギイィ……


ドアを開くと目の前に階段があった。

地下礼拝堂だから当然か。

階段の上には光が見えている。


「さて、いってみるか。」


子どものように妙にワクワクした気持ちで階段を上っていく。


階段を上るとひらけた場所に出た。

規則正しく並べられた木の椅子、アーチ型に作られた石造りの柱、装飾された燭台。絵に描いたような美しい教会だ。


ちょうど教会の聖堂の中央あたりに出てきたらしい。

これだけ大きな聖堂に加えて地下にまで礼拝堂があるのか。

周りを見渡すと、目の前に先ほど出てきたところと同じような扉がある。


ということは、地下にはまだ他の場所があるのだろう。


右には大きな石の扉。

これは入口だろう。

手前には階段もある。


左を見ると、祭壇があり、その後ろには大きなステンドグラスがある。

元いた世界ならキリストが描かれているであろう位置に大きく羽根を広げ、胸の前で手を組んだ天使の姿が描かれていた。


「これ、ミコエルか。」


先ほどまで見ていた姿とほぼ同じ姿だ。

この聖堂の大きさを見ても、ミコエル教のすごさがわかる。

さすが、最大の宗教というだけはある。


俺はステンドグラスをよく見ようと、祭壇の方へ歩いていった。

近くで見ると、さらに大きく見える。


ミコエルの周りには、彼女を取り巻くように従者のような人々が描かれている。

祈りを捧げるミコエルに傅くように、ステンドグラスの下の方には救いを求める人々が膝を折っているのが分かる。

大天使というより女神にも思える。


でも、よく考えたら天使を崇拝しているのに、神が描かれていないんだよな。

元の世界では、天使はあくまでも神の使いのような位置付けだった気がする。

TOMOKI++さんのような運営神もいるのに、なぜ、そちらは宗教化されていないのだろうか?

近いうちに調べてみる必要があるかもしれない。


どうせミコエル教のことは調べてみようと思っていたんだ。

俺は他の場所を調べるために向きを変えて……


「プリズマリン!」


突然、背後から声が響く。

その瞬間、俺は四方を高い石の壁に囲まれてしまった。


いきなりの攻撃で対処が遅れた。

石の壁のようなものに閉じ込められてしまった。

とっさにタブレットを持ち直し、ステータスウインドウを表示する。


「トランスモーフ」のスキルはいつのまにか切れており、ステータスは、数値を入力してくださいになっている。

レミルメリカに来た時点で効果が切れていたのかもしれない。


油断した。


しかし、この攻撃はどこから?

サーチを使ったときには誰も……

それに今もマップには表示されていない。


サーチ:人間


少し前の場面を思い出す。


しまった!


この世界にいるのは人間だけじゃないことを忘れていた。

サーチで分からなかったのは、相手が人間以外の種族だからだ。

今さら後悔しても遅いが、先制攻撃を許した時点で大失敗だ。


今からでも反撃するしかない。

ステータスウインドウを開いたまま、アイテムボックスを起動する。

ここから出られるかどうかは賭けだが、ミコエルの力を使うしかない。

敵の攻撃を受けても復活で耐久は可能だろう。


「このミコエル神殿に許可なく侵入するとは、何者ですかな?」


契約書を使おうとした時、石の壁の向こう側から声が響いた。

男の声だ。声を聞く限り、俺よりは年上だろうか?


いきなり攻撃してこないところを見ると、話の通じる相手なのかもしれない。


「俺はドイル。ドイルだ。」


まずは名前からだ。


「ドイルさんですか、聞いたことのない名前ですな。何をしにここにいらっしゃったので?」


何て答えればいいんだ。


ミコエル様に何となく転生させられました。


分かってもらえるはずがない。

そもそも、ここはミコエル神殿。

ここにいるということはおそらく信者だ。


TOMOKI++さんが言っていたことが本当なら、ミコエル教は、大天使ミコエルが降臨するのを待ち望んでいる。

それにも関わらず、見も知らぬ奴がいきなり、ミコエル様に会ったとか、主張して信じてもらえるわけがない。

どう答えるのが正解なんだ。


「お答えになれないのですか?どなたか存じ上げませんが、怪しい方を逃すわけにはいきませんね。」


こうなったら……


「俺はドイル、転生者だ。」


詳しいことは省略。今は怪しくないことを分かってもらうしかない。


「転生?そんな話は聞いたことがないですな、嘘をつくならもっとマシなものがよいかと。」



ree

(written by 立花いな実)


「嘘はついてない。俺は別の世界から、さっきこの神殿の地下に転生したんだ。怪しい者じゃない。」


正直に言うしかない。嘘がバレたら後が面倒だ。


「どうにも信じられませんな。この神殿は、許可無き者は入れぬ場所、身分をあかせぬというなら捕まえて、使官殿に差し出すのみ。」


聞く耳なしってやつか。転生を知らないなら、信じてもらえなくても仕方ない。

やるしかないか。

アイテムボックスを確認する。


……………

アイテムボックス(1502/∞)

ドイルの契約書 1

ミコエルの契約書 1

TOMOKI++の契約書 1

白紙の契約書 1498

封印の鍵 1

……………


そういえば、TOMOKI++さんの契約書の内容を確認していなかった。

ミコエルの力は大天使の加護、攻撃を防ぎ、魔法を撃ち込むならそちらの方が有利だ。

でも、今回はすでに先手を取られている。

この石の壁が魔法でどうにかなるか分からない以上、契約書を使うのも賭けになる。


それなら……


神の力だ。試してみる価値はある。


「返す言葉がありませんか。それでは、捕獲することにしましょう。『クラフト』。」


クラフト?

それが相手のスキルか。

今は効果を探っている場合じゃない。


……………

TOMOKI++の契約書を使用しました。

……………


よし、ステータスだ。


ドイル

種族:人間

固有スキル:トランスモーフ、絶対管理者

レベル :90

経験値:33734325

所持金:100,000,000イェン

体力:8000

魔力:1500

攻撃:8600

防御:6700

敏捷:6200

状態:管理者権限、身体硬化


TOMOKI++さん、神様なのにパワータイプなのか?

ミコエルとはある意味で対照的なステータスだ。

硬化まで使えるようだしな。


「しばらく大人しくしていてください。『エンダーチェスト』。」


何の魔法か分からないが、石の壁に閉じ込められていても何かしらこちらに影響を与える能力であることは間違いない。

突然、石の壁の外からジャラジャラという音が響く。

これは……鎖の音か?


「『プリズマリン』の檻と『エンダーチェスト』の鎖。この二重の捕縛を抜けられる者などおりませんよ。大人しくしていれば、攻撃はしません。」


どうやら捕獲用の魔法を使われているらしい。

誰かに差し出すとか言っていた。

ここに入るのには許可もいるようだし、警備員みたいなものか?

「身体硬化」はおそらく発動している。

薄い膜のような魔力が身体を覆っているのが分かる。


しかし、「管理者権限」の詳しい内容を探っている暇はない。

ならば、ここはTOMOKI++さんを信じる。

俺は石の壁の中で腕にグッと力を込める。


「誰だか知らないが、始まったばかりでいきなり捕まるわけにはいかないんだよ!」


俺は一か八か、石の壁を思い切り殴りつけた。


ドゴォォォォォォ


大きな音を立てて目の前の石の壁に穴が開いた。

穴を中心に亀裂が広がり、石の壁は崩れさる。


「マジかよ。」


まさかこんなに簡単に壊れるとは思っていなかった。

殴った方の腕にも傷一つ付いていない。

身体硬化の力なのか、それとも基礎力のおかげなのか。


「なっ!プリズマリンをこれほど容易く砕くとは!力を見誤っていたようですね。」


壊れた石の壁の向こうには、体格のよい男が立ってこちらを警戒していた。

砕けた石の壁を見ながら、男が叫んでいる。


こいつは……ドワーフか?


髭は生やしていないが、顔以外の全身を皮のような茶色い防具で包んでいる。

帽子はかぶっていないが、左手には袋のようなものを持っている。

どこかのゲームにいるキャラクターと似ているような気がする。


「待て、俺は争うつもりは……。」


俺は必死に男を止めようとする。


「まさか残党がこれほどの力を持っているとは。くらえ、『TNT』。」


残党?

残党と言ったな。

誰かと勘違いしているのか!?

男が手に持っていた何かを投げると、突然、それは光だし、そのまま箱に姿を変えた。

TNTと書かれた石の箱だ。

それが、こちらに向かってくる。

クラフトのスキルは何か物を作る力のようだ。


原理は分からないが、あの手に持っていたものが素材だろう。

しかし、TNT……どこかで。


「爆ぜよ!」


思い出す暇もなく、その合図と同時にTNTと書かれた箱は音を立てて爆発した。

(そうだ、爆弾のことじゃねえか)

思い出した時にはすでに爆発の衝撃がドイルの方へ押し寄せていた。



大量の煙を見ながらも彼は警戒を怠らなかった。

プリズマリンとエンダーチェストの組み合わせは彼の持つ技の中でも、最高クラスの捕獲力と防御力を誇っている。

魔物ですら捉えたことがあるこの束縛からいとも簡単に逃れることができる相手に油断はできない。


先ほどのTNTも、本来は建物を一撃で破壊するためのものだ。


「まさか、これをくらって無事にすむとは思えませんが。」


煙が晴れていく。

礼拝堂の中でこれほどの威力のものを使ってしまったことは後悔をしないわけではないが、これはすべて彼のスキルによる建造物。素材があれば作り直すことができる。


スキル「クラフト」

採取された素材を元にスキル使用者の望む無生物を作り出すことができる。

一度作られた無生物は、同じスキルで作った爆発物や武器もしくは使用者よりも高い攻撃力を持つ相手の攻撃でなければ破壊できない。


これは戦闘用のスキルではない。

ここまで攻撃できているのは、彼の腕によるものだ。

爆発で砕けた椅子、クレーターのように陥没した地面が見えてきた。


「ま、まさか……。」


そこには男が立っていた。



爆発が起こった瞬間、咄嗟に両腕を顔の前でクロスして顔を守った。

強い爆風と衝撃。

だが、不思議と痛みは感じなかった。

元いた世界なら確実に即死であるほどの熱量だ。

それなのに俺の身体は、何事も無かったかのように動かすことができる。


「やっぱりこの能力はチートだわ。」


ドイル

種族:人間

固有スキル:トランスモーフ、絶対管理者

レベル :92

経験値:33734325

所持金:100,000,000イェン

体力:7800(8000)

魔力:1500

攻撃:8600

防御:6700

敏捷:6200

状態:管理者権限、身体硬化


200ダメージを受けた。


煙が徐々に晴れていき、再び目の前の男が見えるようになる。

どうやら驚いているようだ。

そりゃそうだ。俺も驚いている。

TNTと言えば、ダイナマイト級の爆発物。

いくら身体硬化を使っていても腕の一本や二本吹き飛んでいても不思議はない。


しかし、やはり問答無用で力を使ってくる相手だ。

話合いは難しい。

ここはひとつ、こちらから攻めていくことで活路を見出す作戦を……

ドイルには力技で押し切る以外思いつかなかった。


「今度はこっちからいくぜ!」


俺は思い切り地面を蹴って、相手の方に向かっていく。

一瞬で相手との距離が詰まる。

自分でも思っていたよりかなり早い。

人間の限界を軽く超えているような気がする。

相手もその速度に驚き、何かを発動しようとした。

だが、遅い。


「くらえ!」


相手の顔に向けて右拳の一撃を放つ。

魔法の発動が一歩遅かった男は何とか左腕でガードするも、身体硬化のかかった神の力は伊達ではない。

男は勢いよく後ろに吹き飛ばされ、そのまま先ほどの爆風で壊れていた椅子の残骸に突っ込んだ。


ドォン!


大きな音と共に残骸から砂煙があがる。

壊れた椅子の木屑が舞い上がったのがはっきりと分かった。

TOMOKI++さんのパワーに感謝だな。


さて、ガードもされていたようだし、あの一撃では倒せないだろう。

だが、このまま近寄るのは愚策。

ここはこれだ。


…………

ミコエルの契約書を使用します。

…………


遠距離から魔法で攻める!


そして、ミコエルの力を身に纏った俺は"大天使の加護"を発動した。


ドイル

種族:人間

固有スキル:トランスモーフ、大天使の加護

レベル :90

経験値:34994113

所持金:100,000,000イェン

体力:6000

魔力:9999

攻撃:1200

防御:5700

敏捷:7500

状態:自動魔力回復、魔法無効(光)、闇魔法効果上昇


「大天使の加護」で魔法の発動に時間がかからなくなっている。


「いけ『シャイニーウインド』」


風属性の初級クラスの攻撃魔法だ。

レーザーのような細い風の筋が相手に撃ち込まれるって書いてあ……


ヒュッ……ドオオオオオン!


「うおっ!?」


思わず声が出た。

なんだこの威力は。

椅子の残骸の一部が吹き飛んでいる。


あの男は大丈夫だろうか?

直撃で消し炭になってないよな?

初級の風魔法がなぜこんな威力に?


ガラガラッ


どうやら生きているようだ。

男は残骸の中から立ち上がった。

片腕をだらんとたらして反対側の手で肩を押さえている。

満身創痍だ。

やりすぎた。



----------------------------------------ー

時間は少し遡る。

大きな爆発音と共に地面が揺れた。

作業をしていた男は手を止めて立ち上がる。


「今のは、爆発音?」


音は建物の中から聞こえたように思える。

何かあったのかもしれない。

たしか、外の作業に目処がついたから大聖堂の方を見に行くと言っていたはずだ。


「まさか、残党がいたのか?」


このミコエル神殿は、先日、魔物に襲われた。

何者かが神殿の結界を破ったことで、魔物が神殿内に侵入したのだ。

偶然、会談のために神殿に来ていた異端審問官・クリスエスとKAIの2名、そして、名前は名乗らなかったが礼拝のために訪れた2名の戦士によって、魔物たちは討伐された。

その際に神殿が破損したことで、今は神殿の中には誰もいれず、修繕工事が行われているのである。


もし残党がいたならこうしてはいられない。

男は作業を中断し、神殿の内部へと走り出した。

走る男の首では銀色のネームタグが揺れている。

このネームタグは国家から認定された技師の証。そして、そこにはこう刻まれている。


「国家認定検査士・タダトモ」

「称号 ダンテP」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はあっ、はあっ、これほどの威力の追撃、お見事です。グフッ。」


うわ、血を吐いた。

これ危ないんじゃ。

今にも倒れそうだ。


「まさか残党の力がこれ程とは……。しかし、この神殿をこれ以上壊されるわけには……。」


ついに倒れてしまった。やりすぎた。

どうするかな。


回復魔法、何が使えるんだっけ……。

というか、残党って何のことだ?

うん、ひとまず治療してから弁明しよう。


魔法を唱えようと頭の中のリストを探す。


「はなぽさん!大丈夫ですか!」


若い男が突然礼拝堂に走ってきた。

どうやら、この男の仲間のようだ。

そうか、「はなぽ」と言うのか。

あった、これだ。


『クリエイション』


最上位の治療魔法だ。魔力を消費して足りない血や体力まで補ってくれる。


「お前、はなぽさんに何をした!」


回復魔法を唱え終わると同時に、若い男が勢いよく吠える。

どうやら倒れているこいつと同じ種族のようだ。

弟子と師匠か何かだろうか?


「俺は、突然襲われたから反撃しただけだって。今、治療魔法もかけたし。」


ひとまず本当のことを言う。

まあ、どうせ……


「嘘をつくな!お前は魔族を率いていたやつの残党だろ!」


そういうと思った。


「どうせ信じないだろうが、俺は残党じゃない。そもそもこの世界には来たばかりなんだ。ただ、分かってもらえないなら、ここは無理にでも切り抜けさせてもらう。」


もう先手を取られるわけにはいかない。

俺はすでにミコエルの力を身に纏っている。

威力の調整はどうなるかわからないが、とりあえず魔法の準備をする。


「そうはいかない!『ミライノート』」



ree

(written by 立花いな実)


スキルか!

やはり先手を取るしかないな。


『タイムライナー』


タイムライナーは時をかける「混沌」の魔法だ。

大天使ミコエルの力がなければ発動できない時間の境界線を捻じ曲げる魔法。

実際に時間を操作するのではなく、使用者の周りの時間の認識を遅らせる。

相手は気づかないうちに時間を遅く認識するようになっているから、必然的に魔法やスキルの使用、攻撃の反応が遅れてしまう。


といっても、ほんの数秒しか効果はない。

だが、ミコエルの力があれば数秒でも十分だ。


相手はスキルの名前を叫んだが、まだスキルが発動した様子はない。

俺は続けざまに魔法を放つ準備に入った。


ミコエルのスキルによって、魔法の詠唱時間はない。


『ブラックハート』


こちらは闇属性の魔法だ。

これなら、ミコエルの力によって効果が増大する。

ブラックハートは、自分の体力を攻撃に変えて打ち込む技だ。

ミコエルの体力は6000、ただ、あまり体力を使うと威力が上がりすぎる。


ここは100くらいにしておこう。


ドイル

種族:人間

固有スキル:トランスモーフ、大天使の加護

レベル :90

経験値:34994113

所持金:100,000,000イェン

体力:5900(6000)

魔力:9600(9999)

攻撃:1200

防御:5700

敏捷:7500

状態:自動魔力回復、魔法無効(光)、闇魔法効果上昇


体力が削れた。

さっきまでの魔法で魔力も少し減っている。

ブラックハートが発動して、、黒い塊が出現すると、相手のスキルよりも早く相手に向かっていった。


「まさか、スキルが間に合わ……」


ドオォォォォ


先ほどのシャイニーウインドに比べたら威力は低そうだ。


音も小さい。


闇の玉が消える。


そこには若い男と、先ほど「はなぽ」と呼ばれた男が重なるように倒れていた。

 
 
 

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