セレスティア王国:アナザーストーリー(時系列8)
- DOYLE

- 2019年6月15日
- 読了時間: 10分
王国の会議室。
10本の柱に支えられた天井は高く、円卓の机が中央に置かれている。
円卓の周囲には、12個の装飾された椅子があり、中央には模様が描かれていた。
柱の一つ一つの前に光の玉が浮遊しており、明るい輝きを放っている。
その光が天井まですべてを明るく照らしているらしい。
円卓の座席にはいくつか空席もある。
今日の会議には6名が参加していた。
「皆、よく集まってくれた。」
一人の男が口火を切った。
簡素な服装はしているが、どことなく王者の風格を漂わせている。
彼の言葉に反応して、全員がその場で立ち上がり、敬意を表する。
「この場は国の未来を話し合う場。そのような気遣いは無用だ。」
全員が座についたことを見計らって男は話を続ける。
「今日、皆に集まってもらったのは他でもない。先日出現した強大な魔物については聞き及んでいるかと思うが、加えて、クリスエス殿より報告のあった件等について、我が国の意見をまとめておくためである。それでは、まず情報官より報告を。」
「承りました。ファンド王。」
ファンド王。
彼は『ぐへへP』の称号を持つ者。
レミルメリカ最大の国『セレスティア』の国の王である。
ミコエル教を国教化し、国の基盤を安定させたことで民衆の支持を得た。
だが、王国は今、建国以来、最大の脅威にみまわれている。
王の指示を受けた情報官が手元にある資料を開き報告を始める。
「それでは、情報官しおまねき より、報告をさせて頂きます。」
情報官しおまねき。
情報官は王国に有事の際、設置される臨時の役職である。
しおまねきは普段は異なる職に身を置く者であるが、王国を影より支えてきた一族だ。
「まず、先日出現した魔物トカゲアザラゴンですが、冒険者や市民の間でもすでに噂は広がっております。中でも、強き者を求めるという情報が流布されており、腕に覚えのある者たちがこぞって名乗りを上げております。」
「ぐへへ様も討伐には懸賞金を出しているからな、当然だろう。」
しおまねきの発言に反応したのは、クリスエスだ。
ミコエル教の異端審問官である彼は国の中枢にも大きな影響力をもっており、ここ数年は内政官を兼任している。
クリスエスはミコエル教が国教化されたことで力をつけたことで、今の地位を不動のものとしている。
「クリスエス殿も、冒険者に依頼を出されたとお聞きしております。」
しおまねきは、どこから聞いたのかクリスエスの依頼の件を耳にしているようだ。
クリスエスは表情を変えることなく言葉を続ける。
「ご報告はこの場でと思っておりましたが、しおまねき様の言う通り、王国随一の冒険者、いや、魔物ハンターのめた、そして、きいちに討伐を依頼しておきました。」
「ほう、あの2人か。噂には聞いているが、それほどの腕前か。」
ぐへへPも彼らの名前は知っているようだ。
大鷲の魔物の一件では国から報酬を受け取っていたはずだから当然といえば当然だが。
「しかしながら、未だにトカゲアザラゴンのいるという天空の頂については場所が特定できておりません。」
しおまねきが話を進める。
「しおまねき様でも場所が掴めぬないとなると、捜索には時間がかかるかもしれませんね。」
ここで声を上げたのは、王国魔法師団の団長・泡麦ひえである。
泡麦ひえは、雷の魔法を得意とし、若くして団長に抜擢された魔法使いだ。
「ひえ殿、魔法師団に探索系の魔法で探して頂くことはできないのですか?」
外交官 m─a。先代の国王から国に使える者。
ぐへへPの教育係でもある。
王の名代として他国へ渡ることも多い。
「m─a様、申し訳ありません。探索系の魔法はほぼ全員が使えますが、世界規模の探索を行うことができる者は今の魔法師団にはおりません。」
泡麦ひえが軽く頭を下げる。
「こっちも探索系のスキルを持つものに探させてはいるが、そこまで大規模なものはさすがに無理があるわな。」
剣闘師団団長・kentax。
剣闘師団は王直轄の軍である。
この団長が国の軍事すべてを担当しており、王国全土の兵を動かしている。
国同士の戦いにおいては、主戦力となる程の猛者たちであるが、日頃は王国領内にいる魔物の討伐等を行なっている。

(written by こるん)
「kentax様はトカゲアザラゴンの討伐には参加されるのですか?」
泡麦ひえが尋ねた。
剣闘師団が討伐を行うならば魔法師団も動かなければならないからだろう。
「いや、クリスエスやしおまねきに聞いて貰えば分かると思うが、問題はそれだけじゃないらしくてな。国内でトカゲアザラゴンが暴れるなら俺たちで狩るが、頂きとやらで待ってる奴に構ってる余裕はねえよ。」
kentaxの言葉を受けて、しおまねきが続ける。
「kentax殿の言葉通り、トカゲアザラゴン以外にも警戒すべき問題がございます。それについてはファンド王にすでにクリスエス殿からお話があったと聞いております。」
しおまねきがクリスエスの方を見た。
クリスエスはその視線を気にも留めず、話を始めた。
「ぐへへ様にはすでに報告済みだが、皆、心して聞け。ミコエル教に、いや世界に反旗を翻す4人の大罪人。四天王が動き出した。」
「なんと!やはり噂は本当だったのですか。」
m─aが声を上げて驚いた。
外交官を務めるm─aもどこかで話は聞いていたのかもしれない。
「四天王ですか。いったいそれは……。」
「なんだ、そんな奴ら聞いたことねえぞ。」
泡麦ひえとkentaxはどうやら何のことか理解が追いついていないようだった。
「2人はまだ国の大役を担って日が浅い。知らぬのも無理はない。私自身も口伝で聞かされたのみで、実際に見たことはないからな。誰か説明を。」
ぐへへPが軍事に携わる2人を庇ったのが分かったのか、残りの者は何も口を挟まなかった。少しの沈黙のあと、口火を切ったのはしおまねきだ。
「四天王は目的、正体等、あらゆることが秘匿されている4人の者たちです。いつからそう呼ばれているのか分かりませんが、このレミルメリカで起こる大規模な争乱や戦争、その影には必ずこの4人がいるとさえ言われています。」
「ミコエル教では、この名前も分からぬ4人を異端者に指定し、情報を集めている。一部では先のトカゲアザラゴンが出現したのも四天王が関わっているのではないかとさえ言われている。」
クリスエスがしおまねきの説明に捕捉した。
「外交ルートでもその話は出ておりました。最近の魔物の増加を懸念したことによる噂程度だと思っておりましたが。」
m─aも独自のルートで情報は耳にしていたようだ。
確証が得られなかったので、報告していなかったのだろう。
「この世にまだそんな危なっかしい奴らがいたとはねぇ。」
kentaxはいつもの調子だ。
「しおまねき様とクリスエス様がそこまで警戒される相手ですか。」
泡麦ひえは緊張を露わにしている。
2人の様子を確認した後、ぐへへPが指示を出した。
「それではトカゲアザラゴンについては現時点で我が国を挙げての攻撃は行わず、魔物ハンターたちの結果を待ってみることとしよう。しおまねきは、もうしばらく情報収集にあたってくれ。」
「かしこまりました。」
しおまねきが頭を少し下げる。
「次に、四天王についてだが、あまりにも情報が少ない。クリスエス、その後の情報はあるか?」
クリスエスは手元の資料に目を通しながら答える。
「ゆかいあの使者として我が国に滞在中のKAI様より伝え聞いた情報はすべて開示した通りです。私も独自の方法で調べておりますが、足取りすら追えていません。しかし、セレスティアにある学園に何かを仕掛けてくるのではないかとの噂もありますので、油断は禁物かと。」
「四天王なんて、本当にいるのかねぇ。そんな強い奴らなら名前くらい出てきても良さそうなもんだが。」
kentaxは半信半疑のようだ。
「四天王のことは、魔法師団や剣闘師団にはお伝えにならないのですか?」
泡麦ひえが尋ねる。
「国民たちの中でも知る者は少のうございます。イタズラに広げると不安を増大させましょう。」
しおまねきの意見は的確だ。
「世間に噂が広がったとなれば、さらに姿を隠してしまいかねないですからな。情報も使い方次第では武器となります。私もここは、控えておくべきかと愚考します。」
m─aまでがそう言うならば、この場で異論を唱えるものはいない。暗黙のうちに、四天王の話題は隠されることになった。
「学園が狙われる可能性か。あれは、各国の貴族や王の一族も身分に関係なく魔法や武技の才能がある者たちを集めている場所。そこを狙われては国の損失。いや、世界の損失を招きかねない。」
学園のことを話すぐへへPの顔は真剣にそのものであった。
他の国からも自由に入学を許可しているため、学園は障壁やセキュリティにも力を入れ、安全面では軍や王宮にすら引けを取らない。
それでも、四天王が噂通りの者たちなら既存の防備では不安そのものである。
「何か学園への安全対策はできるか?kentax、泡麦ひえ。」
ぐへへPの問いかけに2人は答える。
「学園は軍事不介入のため、我が剣闘師団を送り込み守ると言うわけにはいかんな。」
「それならkentaxさん、うちの魔法師団にもいますが、若者を学園に入れてみるのはいかがでしょう?」
泡麦ひえが提案する。
「たしかにうちにも若いのはいたはずだが、剣も知らない子どものお守りなんてまっぴらだろうさ。」
kentaxはどうやら反対の様だ。
貴重な戦力を学園に投入することへの反感も感じられる。
「それでは、学園には、私が人員を手配しよう。」
名乗りを上げたのはクリスエスだ。
「若者は国の宝。とは言え、これだけの脅威があるときに国の戦力を削ぐことは好ましくない。ならば、私の力を使えば、情報も集められよう。」
「いったいどなたを行かせるおつもりで?」
m─aが尋ねる。
「こういう時のためにあの男がいるのだ。金を払えば動いてくれるだろうよ。」
「まさか『擬態』の……」
「よく分かっているじゃないか、m─a。潜入ならば、あやつ以上の適任はおらんさ。」
「クリスエス様、擬態とは?」
「ひえ様たちはご存知ないかな?擬態で分からなければ、夕立Pと言えばお分かりでは?」
クリスエスの言葉に泡麦ひえの表情が少し厳しいものになる。
「クリスエス殿、学園の中に潜り込ませるのは些か問題があるのではないですか?」
しおまねきから指摘が入る。
「夕立Pの噂くらいは俺も聞いたことがあるが、あいつも確か素性がはっきりしない奴だよなぁ。」
kentaxの声からも疑問が感じられる。
「しおまねき殿の懸念は分かる。夕立Pは国の戦力でもあるからな。だが、スキルはよく知られていても、誰もあやつを見つけられん。ゆえに、問題にもならぬ。」
クリスエスの反論にぐへへPが口を開いた。
「クリスエス。国家の中枢を担う者が、学園を欺くことはならぬ。あそこは権力の及ばぬ地と私が定めた。泡麦ひえ、kentaxよ、2人の部隊には負担をかけるが、若者を選抜し、学園へ送り込んではくれぬか?戦の鍛錬も大切だが、若者には学園での学びの機会も重要であろう。」
「ぐへへ様がそうおっしゃるのであれば。このクリスエス、出すぎたことを申しました。」
クリスエスが引き、泡麦ひえとkentaxが代わりに答える。
「ご命令のままに。」
「承知した。若い者の選抜は任せてもらおう。」
ぐへへPの英断により、学園へは魔法師団と剣闘師団の若者が行くことが決まった。
その話し合いが終わったところで、m─aが別の内容を提出する。
「先ほどまでのお話とは直接関係ないかもしれませんが、深海の国プリズムより会談の要請が来ております。」
「おお、深海の国か。それは願ってもないことだ。m─a、クリスエスと相談し、会談の日程を決めてくれ。」
ぐへへPは早々に会談の要請を受けることを決めたようだ。
「承知しました。クリスエス様、ミコエル教の海底神殿はお借りできますか?」
m─aの提案にクリスエスは答える。
「大切な会談の場に使用してもらえることはミコエル教にとっても有意義。快諾してくれるでしょう。神殿には私から話を通しておきます。」
「よろしくお願いする。それでは、ファンド王。近日中に会談をお願い致します。魔法師団と剣闘師団は、護衛部隊の編成を頭に入れておいてくだされ。」
m─aからの指示に2人の団長はうなづいた。
「予定されていた議題は以上となります。ファンド王。残るは各自からの報告かと。」
しおまねきが場を取りまとめた。
長い会議もどうやら終わりが見えてきたようだ。
「それでは、各自より現在までの報告を聞こう。皆、よろしく頼む。」
ぐへへPの発言で会議は報告の場へと変わることになった。
「まずは内政官のクリスエスより、ご報告します。ミコエル教の行った雨乞いの儀について、吟遊詩人こるんの件ですが……。」
ファンド王(称号:ぐへへP)
情報官 しおまねき
内政官兼異端審問官 クリスエス
外交官 m─a
魔法師団団長 泡麦ひえ
剣闘師団団長 kentax
レミルメリカの大国『セレスティア』の未来を握る6人が、ここにいる。
おまけ

(written by 立花いな実)
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