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団長の憂鬱:アナザーストーリー(時系列12)

  • 執筆者の写真: DOYLE
    DOYLE
  • 2019年6月21日
  • 読了時間: 4分

更新日:2019年6月21日

「あ〜やっと終わった。」


肩を回しながら廊下を歩く。

ああいう堅苦しい話し合いをすることには異論はないが、どうにも政治的なことばかりを気にする奴らとはノリが合わない。


「なんか嫌な予感がするぜ……。」


これは戦士の勘だ。

長年、騎士としてファンド王、いや、ぐへへPに仕えているが、得体の知れない漠然とした不安を感じたのは今回が初めてだ。


「kentax 団長。お待ち下さい。」


考えごとをしていると後ろから声がかけられた。

パタパタと軽い足音が背後から近づいてくる。


「どうしたんだい、泡麦ひえ魔法師団団長殿。」


振り向きながら戯けた口調で名前と役職を告げる。


「もう、茶化すような言い方はやめてください。会議、お疲れ様でした。」


泡麦ひえ。

魔法師団の団長のため、役柄は同じなのだが、どうにも若い雰囲気でつい年下を扱うような態度になってしまう。


「わざわざ呼び止めるなんて、なんか用事かい?それとも、飯でも食いに行くか?」

普段はお互いに戦場にいたり、後進の育成をしており多く、団長同士が顔を合わせることは少ない。


「結構です。kentax団長はすぐそうやってご飯に誘うんですから。もっと団長としての自覚をもってもらいたいです。いいですか?私たち団長という役職は部下に示しを……」


またこの話かよ。

会うたびに同じようなことを言われている気がする。

飽きねえなぁ、こいつも。

真面目が服着て歩いてるみたいな感じだ。


「おいおい、そんなこと言うために呼び止めたのか?あんまり生意気なことばっか言ってると、その服、切り刻んじまうぞ?」


笑いながら飄々と受け流す。

剣闘師団は戦闘集団だ。

明日、戦争が始まれば死ぬ者が出る。

だから団長の俺が一番今を楽しまなけりゃ、部下に示しがつかねえ。

kentaxなりの団長としての流儀なのだ。


「服を!?ああ、いえ、もう良いです。そんなことのために呼び止めたのではなく、先ほどの王からのご依頼について確認しておきたくてですね。」


小言は収まったようだ。


「ああ、学園への若手の派遣ってやつか?」


剣闘師団には若い騎士も多い。

適当に戦わせて、行きたいやつを行かせようと思っていたが……。


「剣闘師団と魔法師団から1名ずつ出すとのことですが、kentax団長はもうどなたか候補がいらっしゃいますか?」


さすがに適当に決めるとは言いがたいな。


「何人かは候補がいるし、若い奴は多いからな。訓練サボって学園生活ができるんだから希望者は多いだろうし、万が一にも敵との戦闘になることを考えるとあんまり弱っちいのはな。」


お?どうやら向こうも考えを言いたそうだ。


「お前のところはどうなんだよ、魔法師団団長さん。」


「魔法師団はそれほど若い者は多くない。ある程度の力がある者というとかなり絞られてしまう。」


それで悩んでるから、話を聞いてきたのか?


「誰を出すつもりなんだい?」


とりあえず聞いてみよう。


「小金井ささらはどうかと考えている。」


どこかで聞いた名前だ。


「おお、例の"分身使い"か。」


噂でしか聞いたことがないが、なかなかの期待の新人と言う話は聞いている。


「そうです。彼女はまだ若い。一度、外の世界を知ることも必要かと思いまして。」


あんたも若いだろうという野暮なツッコミは無しだ。


「いいんじゃねえの?どんな奴かわかんねえから、こっちから出す奴との相性が問題ではあるけどよ。」


剣闘師団と魔法師団は、戦闘時には共に戦うことも多い。

学園を守ると言う命令を受けているなら尚更その可能性はあがる。


「それなら、そっちの小金井ささらって奴を連れて、お前一緒に剣闘師団のところに来いよ。連れて行く奴をそいつに選ばせればいい。」


我ながらいい考えだ。

騎士と魔法使いはお互いに相性が良いと引き合うこともあるらしい。


「そんな適当でいいのですか?合同訓練ならば手続きを踏んで……。」


真面目か。


「ちがう、ちがう。訓練なんかしねえよ。だから、うちには今のところ女騎士は居ねえから、組む男を自分で選びに来いって言ってんの。」


学園に通う同級生を選べと言っているつもりなのになぜ合同訓練の話になるんだ。


「組む男を選ばせるなどと、なんという。そ、そんなお見合いのような色恋を戦の世界に持ち込むなど……。」


色恋の話はしてねえ。


「だから、別にそんなんじゃねえって。真面目すぎて頭の中がお花畑になってるぜ。何でもいいからとりあえず、今度小金井ささらを連れてこい。いいな。」


そう言うと、kentaxはクルリと背を向けて歩き出した。


「誰が頭の中、お花畑ですか!今度言ったら雷に撃たれますから!」


あいつが言うと本当に雷が落ちそうだ。

雷使いの魔法師団団長は伊達ではない。


しかし、何度会議の内容を思い出しても嫌な気持ちが抜けない。

雨乞いの儀の話も聞いたが、そもそも良いのか悪いのかすらよくわからん。

四天王の話は特に危ない気がしている。

敵の情報がない戦争など勝ち目はない。

たった4人で世界を滅ぼすなんてことは俄かには信じられないが……。


「はぁ、めんどうなことにならなきゃいいがな。」


騎士団の団長の仕事がこれ以上増えないことを祈りつつ。

kentaxは、剣闘師団が待つ練武場へと向かって行った。

団長の鬱々とした感情は、この後、部下に向けられることになるのだが、それはまた別の話である。

 
 
 

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