アトラスの軌跡(序)
- DOYLE

- 2019年6月18日
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雨乞いの儀。
それは古来より引き継がれるミコエル教の儀式の1つである。
「地が乾き、水が枯れ、人が嘆くとき、天使へ祈りの歌を捧げるべし」
大天使ミコエルのスキル「大天使の加護」
信徒の祈りにより力を得るこのスキルは、祈りの歌によって最大限に引き上げられる。
そして、雨を望む人々の願いを聞き届けた大天使ミコエルは、祈りの歌を触媒に、天候すら操る魔法「Trails of atlas(アトラスの軌跡)」を発動するのである。
この魔法は三日三晩の間、天候を望むものへと変える。
莫大な魔法力を必要とするため、一度発動したアトラスの軌跡はどのような魔法でも解除できない。
かつて、神話の時代に「ある神」がレミルメリカの全てを大洪水によって洗い流したと言われている。
その際に使われた魔法がアトラスの軌跡である。
しかし、大天使ミコエルと言えどもその反動は大きく、魔力をすべて失う。
つまり、儀式の後、大天使ミコエルは強力な魔法を使えない。
もし、大天使を狙う者がいた場合、儀式は絶好の機会になってしまうのである。
だからこそ、雨乞いの儀を執り行う際には大天使ミコエルを護るための厳重な警護の準備をせねばならない。
さらに、祈りの歌の効果を最大限に引き上げられる祭壇の設営、祈りを捧げるための信徒の招集なども必要だとなる。
「自然を操る」とはそういうことだ。
アトラスの軌跡の成功に必要なものは、大天使ミコエルのスキルだけではない。
そもそも捧げられる歌に込められた力が大きくなければ大天使に人々の祈りが届くことはない。
かつての雨乞いの儀に捧げられた曲は「伝説入り」を果たしたことで、人々の耳に触れることはなくなってしまった。
今となっては、どのような歌かを知る者はかつての神々と大天使のみとなっていた。
それほどの力を持つ新たな歌を創る者、歌い手が現れなければ儀式は成立しない。
しかし、レミルメリカの歴史の中で、世界を救える力を持っていた歌い手はたった1人。
だが、その者はすでにいない。
人々は待った。
新たな「歌い手」の誕生を。
そして、いつしか噂が流れた。
歌を力に変える者、吟遊詩人こるんがいるという噂が。
噂が噂を呼び、吟遊詩人こるんの名は、レミルメリカ全体に知れ渡ることになった。
そして、人々はこるんならば、雨乞いの歌を創ることができる、歌うことができると信じるようになっていった。
吟遊詩人こるんは、レミルメリカの様々な土地に足を運び、歌っていた。
セレスティア、プロムナード……こるんはいく先々で歓迎された。
そんなこるんに、人々から雨乞いの儀のために歌を創ることが依頼されるまで、さほど時間はかからなかった。
こるんは、自分のこと歌が役立つならと快諾した。
ミコエル神殿へ赴き、まきエルと交渉する役も自らこなしたのである。
ところで、レミルメリカにおいて、雨乞いの儀が行われた記録は過去に1度だけである。
レミルメリカ全体を巻き込んだ数十年前の大きな戦争の後、大地は水を枯らした。
人々は、水を求めて大天使ミコエルに助けを求め、その時、大天使ミコエルが地上に降臨し、人々に雨乞いの儀の方法を伝えたとされている。
そして、時は移り、現在。
再び、人々は雨を求めたのである。
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